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6

愛しき伴侶の髪を撫でながら、リュディガーは眠り続けるロルフを見つめていた。
久しぶりに抱くその体に、随分と無茶をさせた自覚はある。心の中でそれを詫びながらもリュディガーはロルフの言葉を思い出していた。

確かに、愛していると言った。あの言葉は、肉欲に負けて口をついて出たものではない。そうするつもりでいたが、あの一言で戒めを解き思い切り啼かせたのはロルフが心からの言葉をくれたことに我慢が出来なくなったからだ。

「ならば…お前は何に怯える…?」

その誰よりも優しい心に一人何を抱えているのかを教えて欲しい。
リュディガーは眠るロルフの頬にキスをすると、少しでもその心が休まるようにとロルフをそっと抱きしめて自分も眠りについた。



ふと目を覚ましたロルフは、自分を抱きしめるリュディガーをじっと見つめた。リュディガー達吸血鬼一族は夜に眠ることはあまりない。対してロルフたちワーウルフ族は夜には獣に姿を変えるが基本人間と同じく昼間に起きて行動する。

恋人同士になった際、ロルフと同じ時間を過ごしたいがためにリュディガーはロルフと同じく夜に眠るようにシフトチェンジしていた。

そっとその美しい顔を撫でる。

リュディガーほどの実力者ともなれば睡眠中に気を許して熟睡することなどあり得ない。いつその命を狙われるかわからない立場の者であるリュディガーはロルフの隣でだけこうして幼子のように眠る。
以前のリュディガーからは全く想像できない姿だ。

己の行動スタイルまでも、ロルフに合わせて変えてくれた。そんな優しい人だからこそ…


「…愛してる…」


眠り続けるリュディガーに囁いてそっとキスをすると、ロルフはリュディガーを起こさないようにベッドから抜け出した。



月明かりが照らす薔薇の園を、フクロウの泣き声だけが夜闇に響く中、ロルフは辺りを伺いながら歩く。できるだけ気配を消して、息を殺し、誰にもばれない様に時折後ろを振り返り誰もいないことを確認すると安堵したように小さく息を吐き出してまた歩き出した。

無意識に己の下腹辺りに手のひらを当てていることに気が付いて無言で少し立ち止まりそっと撫でる。

ロルフたちモンスターは、生殖機能の付いた子種を取り込んだ場合確実に子を生す。恐らく、自分の中にはすでにリュディガーの子が宿っているだろうと思う。
だからこそ、急がねばならない。一刻の猶予もならない。誰にも見つからない様に、誰にも絶対にばれない場所へ。

ぐっと唇を噛み一歩踏み出した時

「どちらへ行かれるのですか?」

すぐ後ろ、誰もいなかったはずのそこに周りの空気さえ凍らせるほどの負のオーラをまき散らしながら、その顔に残忍な美しい笑みを浮かべロルフを見つめるブルーノがいた。


「…あ、」
「いけないお人ですねえ…。我が主…あれほどあなたを愛されていらっしゃる王の元から何故に逃げ出そうと?」

笑みを崩さずに、じり、とロルフに一歩、また一歩と近づく。ロルフはブルーノが歩を進めるたびに少しづつ後退する。

「さあ、リュディガー様の元にお戻りください。…大事なお体を、冷やしてはいけませんよ」
「こ、来ないでください!」

ロルフに向かって伸ばされたその手を避け、後ずさりブルーノを睨みつけたまま隙を探す。
だが、リュディガーの執事であるブルーノは遥かに自分よりも実力が上で、ロルフは目の前の吸血鬼に飲まれないようにするのに必死だった。

「全く…手を焼かせないでいただけますかね?何がご不満なんです?あなたはこれから、誰もがうらやむ場所に行くというのに。大人しく、城に戻って彼の人の子を生むのです」
「…あなたが、その子を奪うために?」

ブルーノの顔から、初めて笑みが消えた。

全ての音が止み、時がまるで止まったかのように静寂が訪れる。時間にすればほんの数秒であろう。互いに見つめ合う中、明らかに纏う空気を変えて動いたのはブルーノの方だった。

「やれやれ…、知能の低いワーウルフにしては中々に鋭い方なのですね」

くくく、と笑うその顔は今まで城で皆に向けていたものとは明らかに違い、その目は憎悪に満ちていた。


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