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3

よほど本に夢中なのだろうか。俺が扉を開けても先輩は顔を上げなかった。そのまま近づき、目の前の席に座る。頬杖をついてじっと見つめていても、全く気付かないようだ。
ある意味すげえな。

「先輩」

声をかけるも、見向きもしない。こんなこと初めてだ。たいていの奴は俺の声や存在にすぐに反応するのに。
少しいらっとした俺は、先輩の読んでいる本を取り上げてやった。

「ぅえっ?」

突然手の中から消えた本に驚き、目を丸くして変な声を上げて慌てて顔を上げた先輩を見て笑みが漏れる。おいおい、驚きすぎだっつの。

「先輩、こんちは。」
「こ、こんにちは…。えと…?」

どうやら先輩は俺のことを覚えてないらしく、不思議そうな顔をしてじっと俺の顔を見る。むかつくなあ、おれはこんなに先輩のこと覚えてんのに。

「あんときはどうも」

俺はにっと笑って自分の頬をちょんちょんと指でつついてやった。そうすると、思い出したのか先輩はぱちくりと目を一度瞬かせたあとにああ、と声を出した。

「ほっぺたに切り傷のあった子だよね。綺麗に治ったみたいだね、よかった」

にこりと微笑むその顔に、少しどきりとする。ふうん、平凡なくせに笑うと中々じゃん。

「うん、先輩のおかげですっかり綺麗に治ったよ。ありがと。」
「別に大したことしてないと思うけどなあ。そう言ってもらえると嬉しいよ、こちらこそありがとう」

にっこり笑ってお礼を言うと顔をほんの少し赤くしてはにかんだように笑う。俺の笑顔、とろけそうって皆言うからな。結構こいつもどきっとしたんじゃない?

…さあ、落としてやるか。

俺は机の上に置いてあった先輩の手の上にそっと自分の手を重ね、柔和な微笑みを浮かべたままじっとせんぱいを見つめた。俺の行動に、先輩はすごく戸惑っておろおろしている。

「…ね、先輩。お礼がしたいんだ。俺に今日一日付き合ってよ。」

飛び切りのセクシーボイスでじっと見つめそう呟くと、先輩は顔を真っ赤にしてなんとかえしていいのかわからない、というようにものすごく困った顔を向けてきた。

「お礼、なんていらないよ。保健委員としての仕事をしただけだし。」

言いながら、握っている手を離そうとしてきたので逃げられないようにぎゅっと強く握ってやる。

「ちょ…、」
「じゃあ、言い方変えるよ。俺が、先輩と出かけたいだけ。今日だけ。1日だけだから。…だめ?」


つかんだ手をそっと持ち上げ、口元に持っていきふれるかふれないかの位置でつぶやけば息が詰まったように体を一瞬竦ませて、俯いた。

「…わ、かったから、手、離して…」
「やった!ありがと、先輩。じゃあ、行こう。」

にこりと微笑んで手を離すと、ほっとしたような顔をして本をカバンにしまい込んだ。
その手が、ちょっと震えてるように見えたんだけど。こんなちょっとだけの色仕掛けでそんな反応するなんて、すっげウブ。

先輩の反応が楽しくてにやにやしながら先輩が立ち上がるのを待った。

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