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5

「…一颯、その顔どうしたの?」


放課後、下駄箱で靴を履き替えようとしたら一颯が一人でいた。多分笹岡たちを待ってるんだろう。僕に気付くと、ひどく不機嫌に膨れっ面をしてこっちを向いたその顔を見て驚いた。

一颯のでこには『肉』と書かれていて、ほっぺたには猫の髭が書かれて鼻の頭を黒く塗られている。


「いっとくけどお前のせいだかんな!」
「は?」


必死に笑いをこらえる僕に一颯が言うので、なんで僕のせいになるの、と首を傾げる。

「お前、あいつらに告白されたときに俺の名前を呼びながら泣いたんだろ?あいつら、自分たちが泣かせたくせにそれで昼休み教室に戻るなり三人で俺を押さえつけやがって…!ようやく言ったヘタレ共のくせに、完全に八つ当たりじゃん!」

一颯の言葉に僕は真っ赤になって固まった。
今、なんて言った?ようやく言った?

「い、一颯、あの、あのふたり、その…」
「え?あいつらが春乃をどう思ってるかなんて知ってたし。つかあからさまじゃん、気付かない春乃が鈍感なんじゃないの。二人だけじゃなくて若葉も完全にそうだったじゃん」



なにを今更、とでも言うように怪訝な顔を見せる一颯にぽかんと口を開ける。

「春乃、知らねーの?あいつらがあんなに構っていじるの、おまえだけなんだぜ?面白いこと大好きでいたずらとかよくするけど、基本寄ってくる奴らにはどっか一線引いてるし。それに、あいつらが自分からかわいいって言うのおまえにだけじゃん。それに、若葉だって犬コロみたいに引っ付いたり甘えたりするのお前にだけだろ」

…知らなかった。僕はいつも、あの二人にはただからかわれて面白がられてるだけなんだと思ってた。一颯の弟だから、ああやって構ってくるだけなんだって…。
若葉だって、小さい頃に僕に懐いてたからその延長ぐらいにしか思ってなかった。

「そ〜だよ〜ん。だぁから、あの時に寄りによって一颯の名前なんて呼ぶからヤキモチ妬いちゃったんだよん。」
「そうそう、一颯のくせにはるのんに頼られるなんて生意気な!」
「…はーちゃん、いっつも一颯ばっかり特別扱いするのずるいよ…」

突然後ろからがばりとのし掛かるように抱きつかれ、その重みによたつくと両脇から残りの二人にも抱きつかれ僕は完全に埋もれてしまった。

「だからって、油性マジックで書くことないだろ!おれ、今日デートなのに…」

しくしくと泣く一颯に後ろから抱きつく七元がべーと舌を出した。

「いつもいつも色んな男も女もとっかえひっかえしやがって。今までお前に弄ばれた奴らの恨みだと思え」
「お前それただの僻みだろ!!」
「いいじゃん、てっちゃんは喜ぶかもよ。『いぶがにゃんこ〜』とか言ってさ」

笹岡の言葉に、「鉄二が喜ぶ…」とかちょっと考え込んでるバカな一颯がかわいそうになってくる。お前ね、鉄二が喜ぶならおでこに『肉』って書いててもいいの?どんだけ鉄二に命かけてるの、無意識に。


「はーちゃん、ね、ね、一緒にかえろ。そんで、帰りにアイス食べよ。」
「お、いいね!はるのん、はるのんはソフトクリームのバニラ限定ね。」
「もしくは細長いアイスキャンデーね。色はピンクか白で」


嬉々としてデジカメを調節する笹岡をじろりと睨む。


「…嫌な予感しかしないから行かない。」
「そんな!はるのん!いい写真が撮れるのに!」
「はーちゃん!俺はそんなこと言わないよ!だから一緒にかえろ!」
「若葉てめえ!一人だけいい子ぶるんじゃねえ!」


僕をぎゅうぎゅうと抱きつぶしながらやいやいと言い合いを始めた三人の足を、順番に思い切り踏ん付けてやった。三人が痛みのあまり僕を解放して蹲ったところでするりと抜けだして校舎の扉を潜り抜ける。一颯が三人に向かって、
「ざまあみろ!」
なんてあっかんべーをして僕の傍に駆けてきた。

「なあ、春乃。あいつら変わんねえな」
「そんなすぐに変わられちゃ困るよ。」

…僕だって、変わっちゃうのが怖い。
ぽつりとつぶやいた言葉を拾った一颯が、僕の頭にポンと手を乗せる。

「いいんじゃねえの、お前だって変わんないで。そんな春乃が大好きだってさ」


にこり、と微笑みかける一颯に、微笑み返す。

「俺いいこと言った、みたいな顔してるけど、それだと決まらないから。」
「…なあ、春乃。鉄二、ほんとにこれ喜ぶかなあ…」

照れ隠しに言った言葉に真剣に返されて、一颯はほんとに残念な子だなあ、とちょっとしみじみとしてしまった。


そんな僕たちを、三人が笑いながら追いかけてくる。



七元、笹岡、若葉。もう少し待って。三人の想いに、きちんと応えられるように頑張るから。



こんな僕で、いいと言ってくれるなら。
喜んで女王蜂になってあげるよ。



「…イチゴしか食べないから」
「そんなあ!白いのが垂れるのを見たかったのに!」
「あ、なら舌を出してペロペロ舐めてね」
「はーちゃん、く、唇についたのはこっち見ながら舐めてね!」



三人に、一颯が『おまえらきもい』と言ってまた4人でじゃれ合い出すのを横目に見ながら、僕は昨日よりも何だか青く見える空を見上げて笑った。


end

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