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6

発表会の当日、控室で僕が鏡に向かいネクタイを結んでいると後ろから委員長が現れた。
あの日以来常に僕の周りには一颯たちが僕を守るかのようにいて近寄ってこなかったから接触は久しぶりだ。

「やあ、春乃君。久しぶりだね。こないだは手痛い愛をありがとう」

股間を蹴り上げたことを言ってるんだろう。あれを愛だとかいうなんてこの人ほんとに思考回路が狂ってるんじゃないかな。
無視をしてネクタイを整えていると委員長がそっと僕の耳元に寄り、ふふ、といやらしい笑いを口元に浮かべた。

「…家族に愛されてない春乃君。今日こそ君を僕の物にするよ。僕が永遠に愛を与えてあげるから、閉じ込めて鎖で繋いでおなか一杯に僕の愛を注いであげるから。家族なんかより愛してあげるからね。楽しみだなあ」

この人、顔も家柄も申し分ないのになんでこんなに変態なんだろう。色々無駄遣いだよね、と思いながらくすりと笑みを返す。
いつもと違う僕の態度に委員長が驚いて目を見開く。

「は、春乃く…、」
「いいですよ、委員長」

鏡越しに微笑みながら言うと、委員長はますます大きく目を見開いた。

「今日、あなたに負けたら前から言うとおり僕はあなたの物になってあげる。」

そのかわり、と目を欲望で濁らせる委員長を鏡越しに強く見つめる。

「あなたが負けたら、あなたは僕の奴隷だ」

にこりと微笑むと、委員長は呆然と佇んだ。いい加減絡まれ続けるのもうっとおしいからね。

「綾小路春乃さん、次の次です。準備お願いします」

スタッフに声を掛けられ、僕はネクタイをきゅっと締めると委員長をその場に置き去りにして、颯爽と楽屋から出て行った。


委員長の言葉は少しも僕の心に響かなかった。僕には一颯がいる。僕の大切な双子のお兄ちゃん。あの日の一颯の言葉は僕に有り余るほどの自信をくれた。大丈夫。例えここに誰もいなくたって、僕は僕でいられる。心の中に、皆の愛を感じていられる。

絶対に、負けない。

大きく一つ深呼吸をして舞台に上がる。観客席に向かい、礼をしようとして目の前の席にいる人物たちを見て固まってしまった。


兄様、父様、…一颯。そして、父様の手には優しく微笑む母様の写真。


僕はにこりと微笑むと、一礼をしてピアノに向かった。



「春乃、お疲れ様!」
「父様、どうして…!?」

コンクールが終わり、ロビーで待つ家族の元へと駆け寄る。父様は優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。

「やはり春乃の勇姿を見たくてね。詰めて詰めて大急ぎで仕事を片付けたんだよ。そのせいでずっと家に帰れなくてね、寂しかっただろう?ごめんな、春乃。」

父様、最近ずっと遅かったのは今日来てくれるためだったんだ…。それは言い換えると僕のため。嬉しくて嬉しくて顔がほころぶ。

「春乃、おめでとう」
「兄様…、デートは?」

僕が首を傾げると兄様は一目でわかるぐらいしゅんと落ち込んだ。

「…小暮に、怒られたんだ。今日のコンクール、小暮には言ってなかったんだけどたまたま小暮のおじさんがピアノやってるらしくて。おじさんから小暮に電話がかかってきたんだ。『今度のコンクールに春乃くんが出るらしいな、しかも優勝候補なんだって?』って。おじさん、音楽関係のことに詳しいんだよ。大きなコンクールとかは出場者をチェックしてるらしい。それで、小暮にバレて、めちゃくちゃ怒られた。
『春乃はもう15才だぞ』って言ったら、『もうじゃない、まだだ。そのうちの何年一緒にいてやったんだ。いくつとか関係ない、頑張る春乃を一人にするつもりか』って。」

あの小暮さんが、兄様に怒るだなんて。信じられなくて思わず目を見開く。

「ごめんな、春乃。俺も、勝手にお前はもう一人でも大丈夫だとか思った。大丈夫なわけないよな、ほんとの春乃は寂しがりで泣き虫なのに。いつもしっかりしてるからお前に甘えちまった。
今日の春乃はほんとにカッコよかった。見に来てよかった。おめでとう、春乃。」
「兄様…!」

嬉しくて、人目もはばからず兄様に抱きついた。

「おいおい、春乃。父様にも抱きついてくれよ〜」
「父様!」

両手を広げておいで、ってしてくれる父様の胸に飛び込む。

「ありがとう、父様!ありがとう、兄様!」

素直に笑ってお礼を言うと、横で一颯が頭の後ろで腕を組んでニヤニヤ笑ってるのが見えた。いつもなら突っかかるんだけど、今日はしない。一颯にもにこりと微笑み返すと一颯が「うわ!素直な春乃超レア!」と笑った。

「あ…」

その一颯の後ろから、委員長がこちらに近づいてきた。

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