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8

「こんにちは〜」

小気味よい鐘の音が響くと同時に、店内への扉が開かる。爽やかな挨拶と共に入ってきた男子学生に、店にいる皆が振り向き頬を染める。

「勝さんいますか?」
「やあ、いらっしゃい。」

ショーケースに前に立ち、スタッフに特定の人物の名を告げるとすぐに厨房から現れた、愛しの恋人。

「こんちは、勝さん!今日の新作ある?」
「あ、ああ。ほら、これだよ。」

そう言って目の前に差し出されたいちごをふんだんに使ったケーキを見せると、男子学生――――佐賀は、にっこりとそのかわいらしい顔に笑みを浮かべた。

「おいしそうだね!じゃあそれちょうだい!」
「だろう?自信作なんだ」
「ほんとはあなたの方がおいしそうなんだけどね〜」

ケーキをおいしそうと褒められ、嬉しそうに頬を染めていそいそと準備をする勝の背中にぼそりと呟かれた言葉には勝は気付かない。ケーキと、紅茶とをトレイに乗せてカフェコーナーへ移動する。

「あ」
「あ!は、晴翔!」

いつもの席に行こうとして、カフェコーナーに仲良しの従兄弟がいる事に気が付いて声を出すと向こうも丁度佐賀に気が付いて笑顔で手をあげてきた。

「ひ、久しぶり!晴翔もよくここに来てるの?」
「うん!ここのケーキおいしいだろ?」
「うん!僕、ここのケーキ大好きなんだ。いつもね、仁さんが連れてきてくれるの。あ、仁さんていうのは、その…」
「恋人なんだよね?はじめまして」
「…ああ。よろしく」

真っ赤になってしどろもどろと言いよどむ従兄弟の代わりに、さらりと二人の関係を口にして向かいに座る相手に挨拶をする。嫉妬をはらんだ目で見られてこんなに思われているなんて幸せ者だなあと真っ赤になって口をパクパクさせている従兄弟ににっこりとほほ笑んだ。

「俺もね、恋人に会いに来てるんだ。じゃあね。」
「え、えっ?えっ?」

突然の告白に困惑している従兄弟に手を振り、いそいそと特等席へと腰を下ろす。目の前で、勝に向かって微笑むと厨房の中にいる勝も恥ずかしそうに微笑みを返した。

目の前に置かれているケーキに、フォークを入れる。

お互い、晴れて恋人同士になってからも佐賀の行動は変わらない。ケーキを食べに現れて、塾の帰りに店に立ちより、勝を乗せて家路につく。

それでも、今までとは全然違う。

たわいのない会話も、後ろに乗せられてその腰に腕を回すときも。こうしてカフェコーナーで、特等席に座るときも。

まるで佐賀の取る全ての行動が、甘い甘いいちごのようだ。


そしてまた、佐賀も思う。


自分のために前に出てきてくれる時も、自転車に乗せて腕をまわされた時も。こうして特等席で微笑む自分に微笑みを返してくれる時も。


勝自身が、甘いケーキのようだ。


厨房奥の冷蔵庫に飾りの為のいちごを取りに行き、そのうちの一粒を手に取ってじっと見つめる。

あの時甘く感じられなかったいちごが、今はとても甘い。
それは多分、佐賀の糖度のせいだろう。


真っ赤ないちごに負けないくらいに頬を赤くして厨房に戻った勝は、それをネタに閉店後佐賀に散々『かわいい』と言われるのだった。




end



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