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3

それからも、佐賀はたびたび勝を訪ねてやってきた。塾の帰りだと閉店後に店の前であうことも多くなり、その時には必ず自転車の後ろに乗るように言われ二人乗りをして帰路につく。

日々の忙しい仕事にも、佐賀の笑顔で癒される。

勝にとって佐賀は可愛い弟のようなものだった。

だが、勝の中で佐賀に向けるその感情が弟に向けるものではないことに気付くのはそれから間もなくの事だった。

その日、勝の店には一組のある種異様な組み合わせの男子学生がカフェコーナーに来ていた。かたや大きな体躯にきつめの顔立ち、いわゆる強面顔という一見すれば厳つい不良の様な見た目の男子学生。もう片方は、少し襟足の長めの銀の髪をしたかなりの美形である。
ガタイの大きな学生の方は、店がオープンしてからすぐによくここに訪れてくれていた。その時は女の子三人と来ていたのだが、いつしかこの美形な学生と二人で訪れることが増えた。ここに現れる様になって2か月ほどになるが、二人は全く違うタイプながらとても仲がいい。

特にガタイのいい生徒は見た目に反してとても優しく大人しく、幸せそうにケーキを食べるその姿に勝は自分と同じ見た目を裏切るその学生に親近感のようなものを覚えていた。

「こんにちは!勝さん!」

からんからん、と店の扉が来客を告げる鐘を鳴らすと同時にいつものように佐賀が明るい声で店内に現れた。作業している手を止めていそいそと厨房から挨拶のために顔を出した勝は、いらっしゃい、と声をかけようとして止まってしまった。

佐賀が、ある一点を見つめて表情をこわばらせていたからだ。

「佐賀君…?」

おそるおそる佐賀に声をかけると、佐賀ははっとして勝に目を向けた。

「あ、ま、勝さん!こんちは!」
「う、うん。こんにちは。いらっしゃい」

勝に向き合った佐賀はいつもの佐賀で、先ほどのは見間違いかとホッとする。

「今日はこないだの新作のもう一つの方にするかい?飲み物はいつものでいいかな」
「あ、うん…、きょ、今日はここで食べるのはいいや!ちょっと用事があるから、持って帰る!」

何だか歯切れが悪くまるで何かをごまかすかのようにそういう佐賀に不思議に思いながらもケーキを一つ箱に詰め、佐賀に手渡すと佐賀は急いで店の扉を開けた。
一体どうしたと言うのだろうか。心配になって声をかけようとして、勝は佐賀の表情が少し辛そうに歪んでいることに気付く。そして、その視線が自分ではないどこかを見つめていることに気が付いた。

その先にいたのは、カフェコーナーにいるガタイの良い男子学生だった。



閉店後、いつものようにシャッターを閉めて立ち上がるといつの間にいたのか佐賀が立っていた。無言で立っているその姿に驚いたが、それよりも勝は佐賀のその表情に驚いた。

「さ、佐賀君…?」
「…まさるさん…」

まるで迷子の子供の様に泣きそうな顔をして立っている佐賀に駆け寄ると、佐賀はますます泣きそうな顔をして俯いた。

「なにかあったの?よかったら話聞くよ。うちにおいで」

今日は客引きが早く明日の仕込みを営業中に終えることができたのでいつもよりも早く店を出ることができた。時刻は夜の七時過ぎだから、自宅でもそんなに遅くならないし問題はないだろう。どこかの店よりはゆっくりはなしができるだろうと佐賀を自宅へ招き入れることにしたのだが…


それを後に激しく後悔することになる。


「適当に座ってて」

自宅へ辿り着き、いまだ項垂れる佐賀をとりあえずリビングのソファに座らせるとキッチンへ行きコーヒーを入れて佐賀の元へ戻る。佐賀は子供の様にソファの上で膝を立て、それを抱え込んでその膝の間に顔を埋めていた。

「佐賀君、どうしたんだい?いつも元気で明るい君がそんなに落ち込むなんて珍しいね」
「…勝さん。おれ、おれ…」

なんとか少しでも元気を出してほしくて、丸めているその背中をそっと撫でると顔を上げて泣きそうな顔を勝に向けた。

「…今日の夕方、お店に行った時にいた、男、…」

ポツリ、とこぼされたそれは、あのガタイの良い学生の事だろうとすぐに気が付いた。口を挟むことなく、とにかく佐賀の話を全部聞こうと勝は佐賀の背中を撫でながら相槌だけを打つ。

「…あの、ケーキを食べていた方…、俺の従兄弟なんだ。スゲエ仲良くて、いつも俺と暇さえあれば遊んでて。あいつ、あんな見た目だけどすげえ乙女でさ。縫い物とかお菓子作りとかスゲエ好きで、おれ、いつもあいつに何かもらったりしてて…」

ケーキを食べていたのはガタイの良い方だったな。やはりあの子を見ていたんだ。

そう知ってすぐに胸の奥がチクリと痛んだのを気のせいにして、佐賀の続きを待つ。

「バレンタインもさ、手作りのお菓子くれたのに…あいつ、最近、『恋人ができた』とかって全然遊んでくれなくなって…か、風の噂で、男と付き合ってるって聞いて…でもまさか、今日あんな風に目の当たりにするなんて思わなくて…」

ぎゅう、と膝を抱える腕を強く握りしめる佐賀に何と声をかけていいのかわからない。自分の大事な従兄弟が男と付き合っている。その事実に悲しんでいるのか、それともどういう意味で悲しんでいるのか。


もしかして、


佐賀はその子の事が好きだったのではないか。だからこそ、その従兄弟が恋人といるところを見てこんなにも傷ついているのではないか。



そう考えた瞬間、勝の心がまるで氷のナイフでも突き立てられたかのように冷たく冷えるのが分かった。


「あいつ、あの男とデートしてんのかな。恋人ってことはキスとかしたりしたのかな。それとも、それ以上の事だってしたのかな。…っ、おれだって…っ、」


そこまで言うと、佐賀は突然勝に抱きついてそのまま床に倒れ込んだ。あまりにも突然の行動になすすべなく佐賀に押さえこまれるような形で床に倒れ、驚いて起き上がるために佐賀をどけようとその肩を掴むと逆にその手を取られて床に押し付けられてしまった。

「さ、さがく…」
「…さみしいよ、まさるさん…」

お願いだから、慰めて。

泣きそうな顔でそう言われて、勝は抵抗などできるはずもなかった。

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