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11

研究所に泊まる、と言ったものの、野々宮は眠ることができなかった。エドはどうしたろうか。もしかして部屋を出て行っただろうか。
自分で拒絶しておきながら、考えるのはエドの事ばかり。最後に見た俯いて涙を流すその姿が、目に焼き付いて離れなかった。


「なんだその顔」


次の日、もう一日講義のために研究所に来ていた唐津が野々宮の顔を見て笑った。そんなにひどい顔をしているんだろうか。野々宮は「ちょっとね」とごまかすように笑った。

「恋人と喧嘩でもしたのか?早く仲直りしろよ、せっかく一緒にいられるんだからさ」

唐津の言葉に、かっと頭に血が上る。野々宮は思わず唐津を壁に押し付けた。

「野々宮?」
「違う、恋人なんかじゃない!俺が、俺が好きなのは…!」


『マヒロ、お帰りなさい』


お前なんだよ、と叫ぼうとして何故かエドの声が頭に響く。
エドは歌が好きだった。家事をしながらいつもご機嫌にその美しい声で歌を奏でていた。
野々宮は、その歌声を聴くのが好きだった。その声で、名前を呼ばれるのが…。

「なんだ、もしかしてまだ告白してないの?あんな好きだーって顔しといて。案外ヘタレなんだな」

くすくすと笑う唐津に、野々宮が目を見開く。


「お前、昨日『同居してる子がやってくれてる』って言ったときすごい嬉しそうだったもんなあ。上手くいくといいな。」

唐津の言葉に、野々宮はすとんと何かが落ちてきたように感じた。
…ああ、そうか。昨日、唐津の顔を見て胸が痛かったのは。


「…ああ、俺、ヘタレなうえに鈍感野郎だったみたい」


最低だな、と笑う唐津を軽く小突く。野々宮はその日、早退してアパートに走った。



まだ、間に合うだろうか。
祈るような気持ちで部屋の鍵を開ける。鍵がかかっていたことにひどくほっとする。エドには部屋の鍵は渡していない。エドの容姿で勝手に出歩くと、また襲われるかもしれない。野々宮はエドに、絶対に一人で部屋から出ない様に言っていたのだ。鍵がかかっているということは、エドが部屋を出ていない証拠。

「エド…」

野々宮はゆっくりと部屋の中へ進んだ。
寝室に近づくにつれ、何か焦げたようなにおいが鼻についた。
まさか、火事!?

「エド!」

慌てて寝室へ駆け込み、目の前の光景に野々宮は頭が真っ白になった。



エドが、自分の髪にアイロンをあてていた。


「何やってんだ、バカ!」

我に返った野々宮が、慌ててアイロンをエドから取り上げる。

「やだ、返してっ!返し…
…マヒロ?」

気付いていなかったのだろう、突然アイロンを奪った人物が野々宮だとわかり目を見開く。
野々宮はエドを見て呆然としてしまった。

美しい金髪だった髪は黒くなり、柔らかだったその髪はアイロンのためにちりちりと焦げている。恐らく髪にあてるときに当たったのだろう、顔にも所々小さなやけどをしている。

「…なに、やってんだ…」

愕然と問いかける野々宮に、エドはぽろぽろと涙をこぼした。

「だ、て…。カラツ、黒髪で、まっすぐだから…。せめて、見た目だけでも、カラツに近づいたら、マヒロが見てくれるかも、って…」

エドの横に、昨日しまった唐津の写真が落ちていた。

「き、昨日は、ごめんなさい。カ、カラツの、身代わりでもいい。僕を、好きじゃなくても。だから、お願い。出ていけ、は言わないで。側にいることだけは許して。」


マヒロが、好きなんだ。


鈴の音のような透き通った美しい声でエドが泣く。


野々宮はゆっくりと近づき、震えるエドを抱きしめた。

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