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すれ違い、交差。

「…もう知らねえ」
「先輩…!先輩!」

必死に泣きそうな声で俺を呼ぶ紫音ちゃんの声を無視して、振り返りもせずに紫音ちゃんを放課後の廊下に一人置いて歩き出した。


事の起こりは三日前、紫音ちゃんが委員会でこれから帰りが遅くなる、と告げた日から始まった。俺たちの学校は、およそ一か月単位で委員が変わる。これは色んな委員をたくさん生徒が経験できるようにとの仕組みなんだが、今月紫音ちゃんは美化委員になったんだそうだ。運悪くちょうど美化月間に当たってしまったために美化委員としてどういう活動をするかを同じ委員のやつと話し合いしなければならなくなったらしくて放課後に残ることにしたそうだ。で、この残って話し合いってやつが、今回俺が怒った原因になる。

紫音ちゃんのクラスの美化委員、隣のクラスのやつと一緒にやらないといけなくなったらしくて、その日隣の美化委員のやつと初めてお目見えしてその時の話し合いの話をしてくれたんだけど…、どうもその隣のクラスのやつが気に食わない。紫音ちゃんの話の内容からして、俺からするとそれって紫音ちゃんに下心ありなんじゃないのかよって感じだったんだ。


案の定、俺の勘は大当たり。たまたま俺と紫音ちゃんが食堂に行った時に、そいつが声をかけてきた。しかも、他の席も空いてるってのにわざわざ紫音ちゃんの隣に座りやがった。で、ほっぺに醤油がついてるって言って、めちゃくちゃ顔を近づけて指で拭い取るとそいつ、俺の方見て挑戦的に笑ったんだ。
それからなんだかんだ、俺と一緒にいるときに現れては委員会の話があるとか言って紫音ちゃんに話しかけ、その間のスキンシップも半端ない。

紫音ちゃんに『気を付けてよ』って言っても、『大丈夫だよ』ってにっこり笑って言うだけ。

そんで三日目の今日、とうとう俺が爆発しちゃった。

またいつもと同じように俺といるときにそいつが現れて、紫音ちゃんに話しかけた。しかもその時、あろうことかそいつ、『こいつう』って言って紫音ちゃんのほっぺをツン、とつついたんだ。
人の大事な彼氏になんてことしやがる!
俺が何か言う前にそいつは脱兎のごとき速さで俺たちの前からいなくなり、俺が紫音ちゃんにいつもと同じように注意をしたんだ。そしたら、また紫音ちゃんは『大丈夫だよ』って…。

『何言ってんの?何が大丈夫なの?俺の前でほっぺたつつかれてどこがどう大丈夫だってんだよ!いつもいつも言ってるじゃん、大体紫音ちゃんは自覚が足りなさすぎるんだよ!いい加減にしろよ、俺はあいつのこと心配だから嫌だって言ってるのに『大丈夫』の一点張りで俺の忠告なんて聞こうともしねえじゃんか!』

ついつい、声を荒げて紫音ちゃんに向かって怒鳴っちまった。でも、一旦不満を口にした俺はそれを止める事なんてできなくて。

泣きそうな顔をしてる紫音ちゃんにいら立ちをぶつけて、放置しちゃったんだ。

廊下を一人歩きながら、ものすごい罪悪感と悲しさと。そして、それでもやっぱり紫音ちゃんが悪いって怒りと。
だけど、さっきの泣きそうに必死に俺を呼ぶ紫音ちゃんの声を思い出して怒りにまかせて速くなっていた歩幅が、ちょっとゆっくりになる。


…紫音ちゃん、ものすごく泣きそうな顔してた。今までずっと梨音ちゃんと一緒にいて、梨音ちゃんに向けられていたものから何年も必死に守っていたあの子が、本当の姿を見せたからと言って自分がその対象になるだなんて本当にかけらも思いもしないんだろう。

実際、自分への扱いが変わった周りにいまだに戸惑いを隠せていない。どれだけ友好的に接してもらっても、あの子は人の顔色を伺うんだ。それをいきなり自覚しろだなんて、どうやって何に注意をすればいいのかわからないのかもしれない。
紫音ちゃんに、俺だけであればいいと思うわけじゃない。

やっと普通にありのままの自分でいられるようになったあの子の世界がきちんと広がればいいと願っているのに。

それでも、天然無自覚って言うのは端から見ていてイラつくわけで。

「―――ああ、もう!」

難しく考えるのはやめた。とりあえず、もう一度ちゃんと話し合いをしよう。

くるりと踵を返して元来た道を戻る。すると、紫音ちゃんはまだ別れたあの場所にいて、でも一人じゃなかった。

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