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8

「おはよう、紫音ちゃん。どうしたの?遅かったね…って、」

翌日、海の家にバイトに行こうとした紫音を博が突然呼び止めた。何やら頼みたいことがあるから他の皆には先に行っていてくれと言い、紫音を引っ張って自分の部屋に連れて行ってしまったのだ。

少し嫉妬を覚えながらも仲直りが無事できたのだとホッとして、晴海たちは先に海の家へと向かった。しばらくして、ようやく博が紫音を連れてきて、声をかけた晴海は途中で言葉を止めてしまった。

「せ、先輩。遅くなってごめんね。」
「うわ!しーちゃん、すごい!」
「…まじか」

克也と梨音も紫音を見て感嘆の声を上げる。それは、紫音の肉体に対してあげられたものでその横で博が得意げに腰に手を当てていた。


博の部屋に連れていかれた紫音は、一枚のラッシュガードを渡された。海の家のバイトでは、Tシャツに短パンが基本でラッシュガードというものを初めて見た紫音は首を傾げた。
とにかくそれに着替えろと言われたので言われるままに着てみて、鏡に映った自分を見て真っ赤になる。博に渡されたラッシュガードは、体にぴったりと密着するタイプで着ると紫音の見事な肉体がくっきりと浮き彫りになったからだ。

「どう?紫音さん、すっげえいい体してっから、こういうの着てたら絶対皆スゲエ惹かれると思うんだよね!そんでもって、人前だと口数少ないしすぐ真っ赤んなるし!まあ見ててよ!」
「あっ、」
「紫音ちゃん!」

紫音の後ろから現れた博が、紫音の背中をトン、と押して店の前に一人飛び出させる。すると、すぐに店の前を通っていた女の子二人組が紫音を見て足を止めた。
押されて少しよろけた紫音が、すぐに体を起こして顔を上げると、目の前で立ち止まる女の子二人とかちりと目が合う。

「…お兄さん、ここのお店の人ですかあ?」
「あ、は、はい。あの…ご利用、ですか?」
「ええ〜、どうしよっかあ!」
「いいじゃん、ちょっとだけ入ろうよ!ね、お兄さん案内してくれる?」

咄嗟に営業の声をかけた紫音に、きゃあきゃあと頬を染めて黄色い声を上げる。紫音は戸惑いながらも二人を連れ、店内のテーブルに案内をした。

「あ、ど、どうぞ」
「ありがと〜!」
「ね、お兄さん何かしてるの?すっごいいい体!かっこいい!」
「い、いや、べつに、あの…」
「やだ〜!真っ赤になっちゃって可愛い〜!」

とりあえずかき氷二つ下さあい、と注文を受け真っ赤な顔のまま慌てて厨房へと入る。そこには唖然とした梨音と克也、ひどく複雑な顔をした晴海に得意げな博がいた。

「な?紫音さん、すっげえ海じゃ目を引く体してんだから!そんでもってその真っ赤な顔!ギャップ萌えでめっちゃ人気出ると思うんだよね!紫音さん、今日からそのカッコで営業ね!」
「え、ええ〜!」
「何だと博てめえ!」

そんなの恥かしくてできないよう、と泣きそうになる紫音と、冗談じゃない!と食って掛かる晴海に博はこてんと首を傾げた。

「…だめ?だって、俺、紫音さんはこんなに人気があるんだよって…だれも怖がったりしないよ、むしろ仲良くなりたくてよって来るよって、知ってほしくて…」

しゅん、とうなだれる博に二人とも口を閉ざす。博なりに、紫音に自信を持ってもらいたいと考えた末の行動なのかもしれない。

「そのままの姿でも、お友達になりたがる人はたくさんいるんだよ。…でも、紫音さんが嫌なら…」

俯いて悲しそうにする博の頭を撫でて、紫音はにっこりと笑った。

「…ありがとうね、博君。俺、頑張るよ。」
「うん!じゃあはい、かき氷2つ!持ってって!」

先ほどまでの泣きそうな顔から一転、にこぉっと満面の笑みを浮かべてかき氷を差し出され、紫音は戸惑いながらもお客様へと運んでいった。

「ほんといい体だよね、しーちゃん…あの服だと、海パンだけよりかっこよく見えるよ…」
「でしょ!ラッシュって、下手に素肌見せるより余計に締まって見えて海だと格好良さ三割り増しに見えるんだよね!」

ほう、とため息をはいてうっとりと見つめる梨音に、博が喜々として答える。

「ありゃねえな…反則だろ」
「博め、くっそ…」

きゃっきゃとかわいらしく紫音について褒めあうちびっこ二人とは対照的に、鍛えていないわけではないが明らかに横に立つと負けるであろうと克也がうなだれ、『変な虫がついたらどうしてくれる!』とぎりぎり歯を食いしばる晴海。


その日、紫音目当てに女性客が列を途切れさせることはなく、晴海はフォローするという名目で紫音に群がるハイエナたちに牽制をかけるのに倍以上の労力を使った。

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