×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




7

立ったままではしんどくはないかと、ようやく泣きやんだ博を砂浜に座らせ、同じように紫音も隣に座る。

「…ごめんな」

しばらく二人でそのまま海を見ていると、ぽつりと博が小さな声で謝った。

「…俺、小さい頃から、こんな顔で、ずっと、バカにされてきたんだ」

博は、先ほど男たちが言ったようにとてもかわいらしい容姿をしている。その口や態度の悪さからは想像もできないほど、女の子のようにまつげは長く目は大きく、梨音ほどではないが本当にかわいいと言う言葉が似合う容姿だった。

「それが、イヤでイヤで…。だって、俺は男なのに。お、俺の父ちゃんは、すごく男らしくて、いかにも海の男ですって、カッコいい男なのに。俺も、そんな風になりたいのになれなくて…。
見た目と中身が違うって、周りからすげえ言われて悔しかった。でも、…初めて克也さんと晴海さんを見たとき、すげえカッコ良くてドキドキした。俺もこの人たちみたいに、男になりたい!って。憧れなんだ。」

目を輝かせて二人の事を語る博は、本当に二人の事が好きなのだとわかる。

そうだよね。先輩たち、かっこいいもんね。

博の言葉に紫音はうんうんと頷く。

「二人が今年、友達連れてくるって聞いて、…梨音さん見た時は、すぐに恋人だってわかった。だって、克也さんすっげえ目じりたれてたし。梨音さんは、男の人なのに、すっごく可愛くて。…でも、」

博は真っ赤になった目をキッと紫音に向けた。

「あんたは…、あんたを紹介された時、俺、ほんとは見とれた。だって、あんたは俺がなりたいって憧れてた、俺がずっとずっと欲しかった物を全部持ってる人だったから。なのに、挨拶されて、話をしてすげえショックだった。俺が、俺が欲しいものを全部持ってるくせに、中身が全然そんなことないなんて…。そんなの、ずるいって。欲しくても手に入らないものを持っているやつが、どうしてこんなに情けないんだって…。悔しくて、悔しくて…」

大きな身長、キツイ男らしい顔立ち、筋肉のついた整った体。自分がなりたい理想であった紫音を、どうしてそれに見合った態度を取らないのかと悔しくて仕方がなかった。

「そんで…、そんで、俺があんただったらって思って、…」
「…ね、博君。俺、博君の事、すごいなあって思うんだよ。だって、すごく小さいのに、かわいいのにとってもとっても男らしいんだもん。お仕事だってすごくできるし、間違ったこと言わないし。」

にこりと笑って博の頭をなでると、博は少し驚いたような顔をした。

「俺が…?俺のこと、怒ってないの?だって、今まで…」
「うん?なんで俺が博君に怒るの?怒られるようなことしてるのは俺だもん。…俺こそ、ごめんね。こんな見た目なのに、博君の思うような人間じゃなくって。その…俺、喧嘩とか、あんまり好きじゃなくって…ぬ、ぬいぐるみとか、かわいいものが好きだから、俺は博君みたいにかわいかったらなあって、時々思うんだ。そ、それに、見た目がこんなんでしょ?だから、怖がられることがすごく多くて、お友達もなかなかできなくて…お、俺みたいな厳つい男が、こんなんじゃ気持ち悪いって皆思うだろうしね。」

ふと一瞬寂しそうに笑った紫音に、博ははっとした。

紫音は、誰に何を言われても優しく消極的ですぐに引き下がる。自分は、理想の見た目があるのにどうして男らしくしないんだと紫音に冷たく当たってきた。だけど、今のを聞いて初めて気が付いた。

自分が男らしい見た目が欲しいと思うのと同じく、この人だって自分の見た目に苦しんでいるとどうして思えなかったんだろう。

自分に『そんな見た目のくせに』と言われるたび、どう思っていただろう。自分が言われては一番嫌な事を、散々この人に押し付けてきたんだ。それなのに、この人はあんな嫌な事ばかり言っていた自分を責めるどころか逆に謝ったり、しかも危ないところを助けてくれた。

本当に男らしいのは、この人ではないか。

初めてそれに気が付いた博は、ぼろぼろとまた大粒の涙をこぼした。

「ごめ…、ごめんなさい…!紫音さん、ごめんなさい!助けてくれてありがとう…!」

ここに来て初めて、博が紫音をきちんと名前で呼び、その広い胸にしがみついてわんわんと泣いて謝った。

[ 118/122 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]


top