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6

「…だいじょうぶ?」
「…!」

くるりと振り返った紫音は、先ほどの様に恐ろしい顔などみじんもなく、いつものように困ったように眉を下げて博を見つめていた。

「…っ、あ…」
「…!ど、どうしたの?どっか痛い?何かされちゃった?ごめんね、助けに来るのが遅くなっちゃってごめんね。」

いつもの紫音の顔を見た博が、ぽろりとその目から涙を一つこぼすと紫音は途端におろおろとして必死に博に謝り始めた。博はボロボロ泣きながら、紫音の腕をぎゅっとつかみ首を左右に振る。

「よしよし。もう大丈夫だよ。怖かったねえ。ごめんね。」
「ひ…っ、ひぐ…っ、う、うわあああん…!」

そっと博を腕の中に引き寄せて、優しく背中を撫でる紫音に博はしがみついてわんわんと大声を上げて泣いた。



「何だよあの野郎!ちょっとでかいからって…」
「なあ、あのガキたしか海の家のガキじゃなかったか?あのデカブツも確か中にいたと思うけど」
「よし、じゃあ明日仕返しに行ってやろうぜ」

「それは困るなあ」

紫音たちが二人のこされた浜辺から少し離れたところで、先ほどの三人組が現れた紫音に対して文句を言い、よからぬことを思いついたその時。三人の前にふらりと現れた男がへらへらと笑いながら道を塞いだ。

「あの子、見た目よりずっとナイーブだからね。嫌がらせとかやめたげてくんない?」
「な、なんだお前…」

ね?と首をこてんと傾げる男は、言わずもがな晴海であった。駆け出した紫音たちの後をつけ、一部始終を離れたところで見ていたのである。

「どうしてもって言うんならさあ…俺がこの場で相手するけど?」
「はっ、てめえみたいな弱そうなやつが一人で…」
「一人じゃねえよ。こいつとやるってんなら俺も相手になるぜ」

三対一で自分たちが有利だと見たのか、三人組がにやりと笑って晴海を小ばかにするとその後ろから克也が現れた。突如現れた眼光の鋭い赤髪の男に、三人共先ほどの勢いはどこへやら一気に腰が引けている。

「て、てめえら二人ともさっきのやつの仲間かよ!今ここで俺らを殴ってみろ、明日店に行って暴力店員がいるって観光協会に訴えてやるからな!」

そいつらの苦し紛れに出たセリフに、晴海も克也も一瞬ぐっと詰まってしまった。喧嘩の腕は自分たちの方が明らかに上だろう。だが、こいつらの言うとおり今ここで自分たちが問題を起こしては民宿の女将さんに迷惑がかかるかもしれない。
少し黙り込んでしまった二人に対して、どうだ!と言わんばかりに三人組が腕を組んで勝ち誇っていやらしい笑いを浮かべる。


…口もきけないくらいに叩きのめしてやればいい事じゃねえか…。

無言でその考えに行きついた二人が目配せをして、チームの総長と副総長の顔に変わる。じり、と一歩三人組に足を踏み出した時、三人の男たちは目の前に二人の異様な雰囲気に恐怖を感じた。

「な、なん、なんだ…」
「な、なにするつもりだ!」

まさに克也が先陣を切ろうかとさらに一歩踏み出しかけたその時である。

「え?お兄さんたち、明日お店に来てくれるの?」

克也の後ろから、少し高めのかわいらしい声がして皆が一斉にそちらに目を向ける。

「お兄さんたち…怒りに来るの…?僕のお店、いけないところあったかなあ?」

克也の横を通り過ぎ、三人の目の前に立ちしゅんとしおらしく眉を下げて、うるりと目を少しうるませて上目づかいでちらりと見上げる、梨音。

「…っ、りお…!」

ぎろり。

克也が梨音に声をかけようとすると、梨音は克也の方を振り返り『黙って』と目だけで威圧をして克也を黙らせた。

「き、君もあのお店で働いてるの?」
「うん、僕、少しの間だけ海の家にいるんだよ。ね、お兄さん。ぼく、頑張ってお仕事してるから、ご飯食べに来てほしいな?」

こてん、と首を傾げるあまりのかわいらしさに先ほどまでの険悪なムードはどこへやら、三人組は真っ赤になってこくこくと頷く。

「…それで、あの、さっきのお話…。お兄さんたちに、怒られるの、やだなあ…。」
「お、怒らないよ!」
「そうそう!怒ることなんて何にもないよ!君みたいなかわいい子の前で怒ったりするはずないじゃないか!」
「ご飯食べに行くよ!」

泣きそうな顔をすると、途端に必死になって梨音の機嫌を取ろうとする。それをぽかんと眺める克也と、すっかり感心した目を向ける晴海。

「うれしい!待ってまあす!お兄さんたち、じゃあね!」

にっこりと花のような笑みを浮かべ、ぎゅっと三人の手を握るとぺこりと頭を下げてばいばい、と手を振る。三人組は毒気を抜かれ、ふらふらと梨音の言いなりのまま手を振り暗がりの中帰っていった。

「梨音、何て事を!あんなの、もしあいつらが変な気起こしたら…」

男たちがいなくなってふと我に返った克也が心配のあまり梨音に怒る。だが、その途中で梨音にぎゅっと抱き着かれ言葉を飲み込んでしまった。

「こ、怖かった…。先輩、やだ。けんかしちゃやだ。」
「…」

克也に抱きつく梨音の体は、小刻みに震えていた。あんな風に、あざとく小悪魔の様に振舞ってはいたものの梨音は内心必死だったのだ。
以前の梨音からは考えられない行動だろう。だが、守られるだけでなく相手を守りたいと言う強い気持ちを持てるようになった梨音は、あれだけ嫌がっていたはずの他人から向けられる自身への欲でさえもうまく手玉に取れるほどには強くなった。
克也が誰かを殴るところなんて見たくない。殴られる所なんて見たくない。
梨音は必死だった。

とはいえ、やはりそれは後ろに克也がいるからこそできたこと。震える梨音をそっと抱きしめ、背中を優しくなでる。

「…ごめんな、梨音。助かった。ありがとう。」

ピンクのオーラに包まれる二人を安堵した顔で見る晴海は、すぐに離れた所にいる二人に目を移す。


「…あっちも、もう大丈夫だな。」

暗くても、紫音が優しい空気で博を包んでいるのがわかる。

晴海はそれにちょっとだけ嫉妬しながらも優しく二人を見守っていた。

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