4
暗い夜道をとぼとぼと帰り、マンションの鍵を開ける。
玄関を開けると、消えているかと思っていた部屋の明かりが点いていた。
まさか、まだ起きているのか?何かあったのか?
慌てて靴を脱ぎ急いでリビングに入ると、ソファの上で俺の服を抱きしめながら眠り込んでいるエドがいた。
無事だった事にほっとすると同時に、その様子に理性が飛びそうになる。かわいい恋人が、自分の服を抱きしめながら眠っている姿を見て欲情しない男なんているのだろうか?
軽く頭を振り、とにかくベッドに移動させようとエドに近づき、その寝顔を覗き込んだ時。
「…涙のあと…?」
その頬についた水の流れた筋をそっと指でなぞる。
…寂しい思いをさせたか…。
一人にしてしまった事に胸が痛み、優しく頬にキスをするとエドがゆっくりと目を開けた。
「…マヒロ…?おかえりなさい…」
「ただいま、エド。ごめん、起こしちゃったな。今ベッドに運んでやるから」
そう言ってエドを抱き上げるとエドは俺の首にぎゅうとしがみついてきた。そのまま寝室に運び、ベッドへ下ろす。
「エド、ほら。ベッドについたよ。」
だが、エドは俺の首にしがみついたまま離れようとはしなかった。
困った。ここはベッドの上。あまり密着しているとおかしくなりそうだ。
「エド…?」
離しなさい、と言おうとして、その体が小さく震えていることに気がついた。
「マヒロ…、マヒロ…!」
俺の名を呼びながら震える体を密着させるエドの体を抱きしめる。
エドは、柔らかくて甘い匂いがした。顔を上げたエドは、その青い宝石のような目に涙をいっぱいにため、俺をじっと見つめた。自然に引き合うようにそっとエドの唇を塞ぐ。軽く触れて離れようとしたその瞬間。
エドは、なんと俺の口を割り、自分の舌を入れてきたのだ。
「…っ!?」
熱い舌が、俺の口内で俺の舌を必死に追いかける。
――――いけない!
俺は両手に力を込め、しがみつくエドを無理矢理引きはがした。エドはひどく驚いて、目を丸くして俺を見つめたかと思うとくしゃりと顔を歪めてぼろぼろと涙をこぼし始めた。
「エド…、あ、あの…」
「…っ、ひ、っく…、うえ、…ッウ、うぅ… っ、ど…、して…っ、、マヒロ、どして…っ?ふ、…、ぼく、が…、やせっぽちの、子ども、だから…?うぇ…」
泣きながら紡ぐ言葉に、驚いて目を見開いた。まさか。まさか、エドは気付いていたのか?俺がエドを抱こうとしないことに。そして、それを自分のせいだと思っているのか。
「ひっく…、が、がんばる、から…っ、僕、マヒロを、頑張って、気持ちよく、するから…っ!」
「…っ、エド、違う…」
「な、なにが、違うの?やっぱり、カラツじゃないと、だめ…?…っ、僕なんかじゃ、やっぱり、マヒロは…」
「違う!」
俺は愕然とした。まさか、エドの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
思わず大きな声で怒鳴ってしまい、その剣幕にエドはびくりと体をすくませた。そして、唇を強くかみ、俯いてぼろぼろと涙をこぼす。
「エ…」
「…っ、めんな、さ…っ、ひっく、…ごめんなさい…、マヒロ、ごめんなさい…。も、言わな、から…っ、」
だから、そばにおいて。
小さな小さな声で、懇願したエドを思い切り抱きしめた。
「…っ、マヒロ…?」
「違う、違うんだ。エド、違うんだよ。お前のせいじゃない。お前は何も悪くないんだ。俺が…」
忘れていた。愛しいこの子は、全て自分のせいにしてしまうことを。
俺は大きく息を吸って、なぜ自分がずっとエドを避けていたのかを話し出した。
「エド…、俺は、そこら辺にいる男と変わりない。かわいい恋人がいて、幸せで。…でもな、それだけじゃやっぱり満足できなくて…」
『満足できない』
その言葉にエドは大きな瞳からさらに涙をこぼす。その目から零れ落ちる雫を、頬に口づけてそっと拭ってやるとエドは嗚咽をこらえる様に余計に涙をこぼした。
「違うんだ、エド。そうじゃない。満足できないってのは…その、あれだ。つまり、俺はお前を抱きたいんだ…。」
「…!」
言ってしまった。とうとう、エドに言ってしまった。エドは一体どんな顔をしているのだろうか、怖くて顔があげられない。もし。もし、エドの顔が恐怖に歪んででもいたら、自分は二度と立ち直れないだろう。恐怖を一度味わっているこの子に、同じことをしたいだなんていいたくなかった。
膝の上で強く握り震える拳に、そっとエドが触れた。
「…?」
恐る恐る顔を上げると、そこには、恐怖ではなく嬉しそうに微笑みながら涙を流すエドがいた。
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