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春日は、単純で、純粋で、めっちゃ素直で、ストレートで、そんでもって

あほの子やと思う。



「ひいっ、ぐ、ううぅぅ”〜!!」

俺の部屋で、携帯片手にきったない顔して鼻水垂らしてボロボロ泣いてるのは、春日謙信。俺の、彼氏。

最近春日は、携帯小説の恋愛もんにハマってる。特に切ない話が好みみたいで、読んではこうして隠しもせずに泣いて泣いて真っ赤に目をはらす。そのたんびに俺は濡らしたタオルを目に当ててやり、ぎゅうぎゅうしがみついてくる春日をよしよしと慰めるのが最近の日課になってた。

でも、最近ちょっとヤバいというか、春日がハマりすぎてるのが気になる。っていうのんも、その物語はあくまでフィクションやー、作りもんやー言うてるのに、現実の自分と重ねていろいろ想像し出したからや。

例えば、不良と真面目な女の子の恋愛もんなんか読んだ日には、その女の子が敵対する不良に捕まって乱暴されかけたのを俺で想像してしもて、めっさ泣きながら
『俺がっ…、何があっても守ったるからなああ!』
とか言うてしがみついて離れんかった。いや、お前不良ちゃうし。俺、んな簡単に捕まらんし。

それでも、まあ俺の事好っきゃからそんなもんにも当てはめて傷つく春日があほ可愛いなあとは思う。


せやけど、これはあかん。今回のは、ホンマに洒落ならん。



「あいつ…!まじしばく…!」


着拒されてエラーで返ってきた春日宛てのメールに、俺は青筋立てながら自分の携帯を握りしめた。


なんか様子がおかしいなと思ったんは、さっき春日が帰る時。最近の日課のようになってるあほみたいに小説読んでボロボロ泣く春日を慰めて、時間になったからと立ち上がった春日を玄関まで見送った時や。

なんや、今までにないくらい切ない悲しそうな目で俺を見つめるから、なんのこっちゃと首を傾げた。

「なんや、どないした?帰りたくないんやったら泊まれば?」
「…ううん。ええねん。帰る。…っ、うえ、すぎ…!」

前までやったら泊まるな言うても泊まるってわあわあうるさかった春日が、珍しく首振るからどうしたんかと思った。くるりと俺に背中を向けて、玄関の取っ手を掴んで俯く春日の肩が震えてた。ほんまどないしたんや、とその肩に手を置こうとしたら、そのまま春日がぐっと天井を仰ぐように顔を上げた。そんで

「…しあわせに、な…!」

謎の言葉を落として勢いよく扉を開けて外に飛び出して行った。

「…は?」

何を言うとんやあいつは。
その謎が解けるんは、あいつが帰っていつものようにお休みメールを送った時やった。



ほんまに、春日はあほの子やと思う。
その次の日から、春日は全く俺の前に姿を現さんようになった。っていうても、部活は一緒やから嫌でも顔は合わせるのにあのあほはめっちゃ辛そうに顔を歪めて俺から目線をそらす。そんで、俺の傍に、一切寄らん。いつもやったらうるさいぐらいに俺にまとわりつくのに全く俺に近寄らん春日に、クラスの奴らも部活の奴らもめっちゃ不思議そうな顔してた。

その理由を知ってる俺は、心配して何があったか聞いてくるやつらに『あいつ今頭イタイだけやから気にせんといて』と流した。

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