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「うっえすぎぃ〜〜〜♪」
お昼休みと同時に愛しの愛しの上杉の教室に飛び込む。ちょお張り切りすぎて扉めっさ大きい音立てて開けたもんやから皆びくーってなってめっさおもろかった。
もちろん、俺の上杉も。なんあれ、肩すくんで跳ねて超かわいいんやけど。
上杉と俺は野球部。上杉、五番、ショート。かっくいー!
俺、四番、キャッチャー。しぶい!
そんなかっこかわいい上杉はめっさモテる。もう、ハンパない。やから俺は、いつも周りに牽制かけんのに超必死。だから今日も、愛しの上杉の気持ちをがっつり掴んで離さんように
「おべんと作ってきまんたー!」
「まんたってなんやねん」
うふふ、相変わらずツッコミも速いわあ!
「まあまあええやん、個性やん。それよりほらほら、弁当!昨日言うたやろ?」
じゃーん!と言いながら差し出した弁当箱をちょっと顔を赤くしながら受け取る上杉。
「ありがとう」
はにかんで笑う上杉かわええわあ!
いそいそと上杉の前の奴のイスを借りて、向かい合って弁当箱を開ける。
「いただきます」
きちんと両手合わせて小さく頭を下げる上杉かわええわあ!
しつこい?ええねん、ほっといて。
たわいのない話しながら一緒に弁当食ってて、卵焼きを一つ箸でつまんでぱくりとかじった上杉は、その瞬間に固まった。あれ?なん、めっさ眉間にしわよってますけど。
「おっま…!これ、砂糖いれたやろ!」
「え?入れたよ、当たり前やん。卵焼きに砂糖は常識やろ?」
「はあ!?あっほか!卵焼きは醤油オンリーやろうが!」
「はあ!?」
なんやて!?卵焼きに醤油オンリーとかありえへんやん!
上杉のことは好きやけど、こればっかりは譲れん!
「なんでやねん!甘ないと卵焼きちゃうやんけ!」
「甘い卵焼きなんか卵焼きちゃうわ!」
「はあー!?それこそありえへんし!何言うてるん、上杉味覚おかしいんちゃう!?」
「はあ!?おっかしいんはお前やろが!こんなもん認めるかぁ!」
「醤油だけとかの方がありえへんわ!認めへんのはこっちの方じゃ!」
砂糖や醤油や、て俺も上杉も見事に引かん。ヒートアップしてしもて、終いに上杉が、バン!て机を叩いた。
「あっまい卵焼きなんざ食いもんちゃうわ!こんなもん食えるかぁ!」
「…!」
上杉が叫んだ言葉に、俺は息飲んで固まってしもた。
「…ひ、ひどいわ…!うえすぎのあほ――!お前なんか醤油ばっかりかけてくって茶色なってまえ!そんで体から出す体液全部醤油なってまえ!」
わああん、と叫びながら俺は弁当を置いて教室を飛び出した。
その日一日はもう散々。変な捨てぜりふ吐いてしもた俺は気まずくて上杉によう話しかけへんし、上杉もちらちらこっち見るけどよう目合わさへん。今日はポジション別練習やったから部活でもほとんど接点なくすんだからよかった。
家に帰ってから、いつもする上杉へのお休みメールも怖くてようせん。
だってだって、上杉めっちゃ怒ってた。どないしよう、しょーもないことで意地張らんかったらよかった。ごめんなーって、笑えばよかった。
次の日の朝、どんよりする気持ちと重い足取りで学校に向かう。あかん、上杉に会うのめっちゃこわい。
いつもやったら上杉に駆けつける休み時間、教室で全部口から魂出しながら机で白くなってた。
「春日、ちょお来いや」
そんでもって昼休み、弁当を食う気にもならんと机に倒れてたら上杉が現れた。
うそやだ、嬉しい。じゃなくてこっわ!なん、無言の圧力感じるんですけど!
戸惑ってたら、しびれを切らした上杉が俺の手を引いて教室から連れ出された。ついた場所は、人の滅多に来ん空き教室。ひいい!別れ話やったらどうしよう!卵焼きが原因で振られるとかイヤすぎる!
「…これ」
びくびく脅える俺の前に上杉が差し出したんは、昨日の弁当箱やった。
「…き、昨日はごめん。言い過ぎた。お前がせっかく作ってくれたもんにしょーもないことケチつけた。ごめん、反省してる。昨日の弁当、ちゃんと食べたから。ごちそうさま、ありがとう。
そ、そんで、今日は、俺がお前に作ってきたから…」
顔を赤くして、ちょっと俯きぽつぽつとつぶやきながら俺に弁当箱を差し出す上杉。
「…っうえすぎいいいいい!!」
「うわ!」
「ごめんな、ごめんな上杉ー!俺も悪かったよー!しょうもないことでヒートアップしてごめんなああああ!」
がばりと抱き着き、ぐりぐりと頬ずりしながらごめんごめんと叫ぶ俺に上杉は笑って頭をはたいた。
「食べてくれるか?」
「もちろん!いただきます!」
さっきまで食欲なかったんがウソみたいに腹が減ってくる。上杉が俺の為に作ってくれた弁当なんて嬉しすぎる!
机やなくて、黒板下のひな壇に並んで座って弁当箱を開ける。めっちゃうまそう。嫁に来い、上杉。
綺麗に巻いてある卵焼きを一つつまみ、ぱくりと口に入れる。
…醤油味や。
そこで譲らんのが上杉らしいなあ、とにやける顔でもぐもぐ食べる。もう一つ、とまた卵焼きをつまんで口に入れる。
「…!」
俺は思わず口を押さえて、ばっと勢いよく隣の上杉をみた。
上杉は耳まで真っ赤にして、箸をくわえたまま下を向いてた。
「上杉…」
「…い、一種類だけやなくていいやん。お前が好きなん、俺が好きなん。どっちもあったら、美味さ倍やない?」
だって、二人の好きなもんが一緒に入ってるんやもん。
真っ赤な顔をこちらに向けて、にっと笑う上杉。
「〜〜〜〜っ、上杉い―――!」
「うわ!ちょ、春日!」
俺は食ってる弁当横において、上杉にがばっと抱きついた。
「ちょ、やめろや!弁当こぼれる!」
「上杉、上杉!ありがとう!そうやんな、俺ら二人で一つやもんな!めっちゃうれしい!ほんまありがとう!」
ありがとう、を繰り返す俺に上杉はあきれたような顔をしつつも嬉しそう。しばらく抱きついてたら、『はよ食えや』って笑われた。
いつもの笑顔や。俺、上杉のこの顔大好き。
いっつも俺らはしょーもないことですぐ喧嘩する。せやけど、こうやって自分と違うところもまとめて俺やからって認めて包んでくれる上杉が大好きや!
俺もやで、上杉。醤油味を断固として譲らんお前やから大好きや。
だからな、だからな、上杉。
「な、まじ嫁に来て?」
「行くかぼけ」
十年たっても変わらんかったら行ったるわ、て笑う。
変わらんよ!ああもう、そんな上杉が大好きや!
end
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