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3

「ごめん」

抱きしめながら耳元で、春日が小さくつぶやく。俺に抱きついてる体が震えてるのがわかるから、泣いてんやろうなあって思う。

「ほんまに、ほんまにごめんなさい。許してください。俺、あほやった。お前の為とか言うて、話に入り込んで自分に酔ってました。」
「…うん」

俺も、腕をそっと春日の背中に回して制服を握る。春日の肩に顔埋めて、久しぶりに嗅ぐ春日の匂いにじわって涙が溢れてくる。

「…もうすんなよ」
「うん。二度とせん。…ごめんな、成親。」

めったに呼ばん名前で呼ばれて、ぎゅうって心臓が痛くなる。

「…あほ」
「うん」
「あほ、春日のアホ」
「うん、ごめん」
「…っ、あほう…」

何回も何回も、『あほ』って繰り返す俺にうんうんって頷いて、優しく背中を撫でてくれる春日に、やっと元に戻ってくれたってほっとして涙が止まらんかった。



春日は、あほの子やと思う。
単純で、純粋で、めっちゃ素直で、ストレートで。

「うえすぎいいい!今日も可愛いで、好っきゃああマイハニー!」
「やかましい」

朝一番に教室に入って来るなり両手を広げて抱きついてくる春日の頭をべしんとはたく。それでもめげんと俺を離さんあたりさすがやなって思う。

あれから、春日は携帯小説を読むのをやめた…わけやなかった。

『切ないんはこりごりや。やっぱ甘々やないとな!』

そう言うて、今度は恋人を溺愛して甘やかしてる超ラブラブな話ばっかり読むようになった。それだけやない。なんていうの?ただの溺愛やなくて、強引て言うか変態?

なんでも、クラスの腐男子とか言うやつがBL小説とか言うのを読ませたらしい。それに出てくる、『変態溺愛攻め』とかいうのにどハマりして

『俺が求めてたんはこれやー!』

とかなんとか言うて俺にそれを見せてきた。うん、ちょっと春日に通じるもんがあるな。

「上杉の匂いめっちゃええ匂い!大好きハアハア!」
「そらよかったな」

まあ、前みたいにボロボロ泣かれるよりはいいかな、とは思う。せやけど、一つだけ言うといたろうか。

「春日」
「なに?上杉」

きゅるん、と目をくりくりさせて俺を見つめる春日のケツの辺りにしっぽが見えるようや。

「誰かが作った話の通りなんかよりな。俺はお前がええんやからな。」
「…!」

大きな目をさらに大きくさせて、途端に顔が真っ赤になる春日。

ほんまに、春日はあほの子やと思う。
どんな最高なラブストーリーもな、お前自身に敵うわけないやろう。



せやから、もう小説なんかやなくて、俺を見とけ。



その夜は、えらいことになってもうたからあほの子に言い聞かせるんももうちょっと考えなアカンなあと痛む腰をさすりながら思った。


end

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