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2

そんでもって、メールも電話も拒否されて春日に無視されるようになって一週間。放課後の掃除当番で、ごみをゴミ置き場に一人で捨てに行った時、後ろから何や人の気配を感じた。見んでもわかる、春日や。

校舎の影に隠れながら俺の後をこっそりついてきて、ちらちら俺を見つめてる。視線がめっさ背中に刺さるっつの。あほが。


ごみをゴミ捨て場において、くるりと後ろを振り返って大きく息を吸い込んだ。

「春日!」
「へっ!?うわ、わああ!」

大声で名前を呼ばれたんにビビッてこけよった。まぬけめ。そのせいでばっちり隠れてた体が俺の前にさらけ出されて、あっ!て顔して春日が慌てて逃げ出そうと背中を向ける。

「今逃げたら一生許さん!」

俺の一喝に、ぴたりと動きを止めて観念したかのように俺の方を向いた。立ちすくんでる春日の前に、ずかずかと歩み寄って目の前で腕を組む。

「そんで?」
「う、あう…」

ちょっと下からじろりと睨んだら春日の頭のてっぺんにあるはずない犬の耳がぺたんってしてるんが見える。もじもじと指をいじりながら、春日がちらちら俺を伺った。

「…あの、あんな、上杉。お、おれら、男同士やし。」
「うん」
「お前、かっこいいし。かわいいし。運動もできるし、頭もええし。」
「うん」
「…めっさ、モテるし。」
「うん」

ぽつぽつと思っている言葉をこぼしながら、たれ気味の大きな目にじわじわと涙を浮かべる。俺はなんも言わんと春日が思ってることを最後まで聞こうと相槌だけ打った。

「…お、おれ、俺なんかより、ええやつがって…。お、俺なんかと付きおうてるより、お前は、かわいくて優しい子がいくらでも寄ってくるんやから、そういう子と付きおうたほうがって…、そんで、しあ、幸せに、」
「ほーーーーーう。なるほどねええ」

そこまで聞いて俺は春日の言葉を遮ってわざとらしく納得したような声を出した。

「そうかそうか。俺の幸せのために、将来のためにお前は身を引こうって、別れようって決めたわけやな。なるほどなあ、うん、わかった。」
「…、あ、う…」

目をきょときょとと泳がせる春日に、内心まじでしばく、と思いながらうんうんと腕を組みながら頷いた。

「そうか。ほんならお前はそれでええんやな。これから先、俺がかっわいい彼女作って、そいつとデートして、腕組んで、」
「え…」
「キスなんかもして、セックスなんかもして、」
「え、え」
「結婚して、そいつと一生一つ屋根の下に住んで、」

淡々とこれから起こるであろう将来を口に出していくたび、春日の顔が真っ青になっていく。

「お前はただの友達になって、俺が他のやつに好きや言うのんを、言われるのんを、それを横で見てるってわけやな」
「…!」

そう言うと、春日は信じられないとでもいうようにしょぼくれて涙に濡れてた目をぐりんと大きく見開いた。ぱくぱくと口を開いたり閉じたりする春日。あほが、覚悟せえよ。冷えた目でもうひと押し、最後に爆弾を落としたる。



「ああ、でもこの先付き合うんが女とは限らんな。また男かもしらんしな。」
「あか―――――――ん!!!」


とどめの一言に、春日が思い切り俺に抱きついてきた。めっちゃ締め付けられてる。痛いがな。

「いやや、いややいやや!上杉が他のやつと、俺以外のやつとそんなんなるなんかいやああああ!」
「お前が望んだんちゃうんかい!」

わあわあ泣き叫びながらぐりぐり頬を擦り付けてくる春日の頭をばしんと叩いたったけど、それでも春日は俺を離さん。だーかーら、苦しいって!

「はーなーせー!」
「いやや!上杉がそんなんせんって言わん限り離さん!離さへんもん!」

なにが離さへんや。離そうとしてたくせに。

「わかったから、ちょっとだけ離れろ。抱きついててもええから。」

苦しい、て言うたらちょっとだけ力を緩めて、すがるような目で俺をじっと見た。うーわ、超鼻水出てるし。マジ勘弁。
ため息を一つついて、春日の頭をぐりぐりと撫でる。

「あんな、春日。お前がなんで俺を無視したり着拒したりしたかはわかってる。」

春日が俺を避けるようになった日、読んでた携帯小説。あれは、多分そう言う話やったんやろう。身分違いに悩んだ主人公が、恋人の為を思って身を引くってやつ。ほんまにこいつあほですわ。

「お前、影響されすぎ。話に当て嵌めてお前が俺の為にって身を引こうとするんは勝手やけどな、その先をちゃんと考えて行動しろや。さっき言うたこと全部、考えてなかったやろ。手を離すって言うことは、そういうことや。好きな奴を、他のやつにゆだねるって言うんは、そういうことや。俺がお前以外のやつに抱かれたり、抱いたりするとこちゃんと想像したか?」

ようやっと想像したんやろう。春日がさらに真っ青な顔してカタカタ震えだして首をぶんぶん横に振る。

「あんな、春日。俺はな、そんな身勝手な相手のためになんかクソくらえやと思ってる。健気?一途?んなわけないやろ!俺から言わしたらそんなんで理由も告げんと離れたり、わざと冷たいそぶりして嫌われようとするやつなんかクソや。そんなことで手離そうとするくらいやったら、はじめっから手ぇ出すな。惚れさすな。受け入れた時点で覚悟は決めてんねん。それを独りよがりな勝手な『お前の為』なんかで片付けんな。もしホンマにそう思うんやったら、ちゃんと話せ。俺が納得いくように、どう考えての行動かを話せ。お前とおることを幸せやと思う俺に対して失礼やろうが!」

くっそ、悔しい。言いながら涙出てきた。

理由はわかってても、やられたことに傷つかへんかったわけやない。考えてもみろや。昨日まで好っきゃ好っきゃ言うてた奴に、いきなり着拒されて無視されて、それが俺の幸せのためやとか納得できるかい。

ホンマにあほや。小説読んで、勝手にそれを俺らに当てはめて、お前とおるんが俺の為やないんちゃうかとか思いよって。


一週間、辛かった。苦しかった。俺は変わらず春日が好きやのに、勝手な理由で突き放されて。
平気なわけやなかってん。大丈夫ちゃうねん。

「お前がおらんと、しんどい」

俯いてぽつりとこぼすと、春日が思い切り抱きしめてきた。

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