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(…無駄にデケェな、おい…)

目の前にそびえたつ門の前に立ち、門を見上げる。
一体何メートルあるのだろうか?首がイテエ。

ボストンバッグを肩にかけ直し、インターホンを押す。

『どちらさまでしょうか?』
「あ、堂島です。」
『すぐにロックを解除いたします。どうぞ中へお進みください。本宅正面玄関にて富原がお出迎えいたします』

プツリ、とインターホンが切れるのと同時に、門からガシャンと音がする。無駄にでかい門を押し、中へと足を踏み入れた。



俺はあの日、富原さんと詳細について話し合った。
まず、今のアパートは引き払い榊原家本宅にて住み込みで生活をすること。

これは俺にとってとてもありがたい事だ。
なんせ今にも追い出されるところだったんだ、二つ返事で了承した。

部屋は幸人坊ちゃまの隣、いつでも坊ちゃまの呼び出しに駆けつけることができるようにだ。
ただし、プライベートは詮索しないこと。

なんでも幸人坊ちゃまはとても好色な方で、それこそとっかえひっかえ部屋に連れ込んではやることやってるらしい。
今迄の執事候補の中には、自分の隣で行われる夜毎の行為にノイローゼになったやつもいるらしい。
最中に呼ばれることもあるとかないとか。


…どんだけ絶倫なの、幸人坊ちゃま。


男女問わず、というところにちょっとびっくりしたけど、まあ俺に害がないならそれもよし。
声や物音は耳栓なりなんなりで防げるだろう。
最中だろうがなんだろうが呼ばれたところで俺は意外に図太いので多分平気だ。
女を泣かそうが男を泣かそうが好きにしてくれ。


…いや、できれば女は勘弁してくれると助かるんだが。


それを想像して、ざわり、と全身の毛穴が泡立つような嫌悪を感じる独特の気配を全身に感じ、慌てて頭を振る。
いけない。余計なことを考えるな。


んで、仕事としては坊ちゃまのスケジュール管理やまあ身の回りの世話なんかが主らしい。

坊ちゃまは高校三年生、俺の一つ下だ。免許を持っているか聞かれたので、頷く。
学校への送り迎えも仕事のうちに入るらしい。18になってすぐに取っておいてよかった。

しかし贅沢な身分だなおい。まあ金持ちならばあたりまえなんだろうな。

あと、肝心なお給料。
月額六十万と聞いた時にはひっくり返りそうになった。
新人で、しかも教育も受けていないなんちゃって執事の給料にしては多すぎるが、それだけ幸人坊ちゃまの世話は大変だということだろう。

そんでもって、念書というか契約書を書かされた。

何かあっても榊原には一切の責任はない、関わりはないとすることと書かれた書類だった。そのかわり、諸事情で都合が悪いことが起きた場合は退職金として二千万もらえると記載してあった。

「ご家族の同意は…」
「いりません。俺、孤児なんで」

受け取った書類に、黙々とサインをする。

「それでは、明日お迎えに上がりますが」
「や、迎えもいりません。自分で行きます、だめですか?」

車なんかじゃなく、自分の選んだ道を自分の足で歩いて確認したい。
俺の申し出に、富原さんはにこりと笑って頷き、一枚の地図を差し出した。

「こちらが榊原本宅までの地図です。ここからですと歩いて一時間ほどかかりますがよろしいですか?」

地図を受け取り、無言で頷く。
そして俺はその日、レストランを後にした。


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