6
長い廊下を歩きながら咲人様の話を思い出す。
あの人はえらいな。
よくグレなかったもんだ。
それは恐らく、幸人様のため。
弟の為に彼は必死に頑張っていたんだろう。
親の愛情が欲しくてわがままばかり言う幸人様。
後継ぎとして親に押さえつけられながらも弟の為に頑張っている咲人様。
どちらも愛が欲しくて叫びもがいている。
そんな気がした。
「…兄弟、か…」
弟をとても大事にしている咲人様。
弟の、ため。
それを思うと、ひどく胸が締め付けられた。
部屋に向かって歩いていると、インカムから連絡が入った。
滝沢だ。
「どうした?」
『すまない、すぐに戻ってきてくれないか。
俺一人では手に負えん』
泣きそうな声の滝沢の後ろから、
がしゃーん!
と何かが割れる音がした。
慌てて幸人様の部屋に向かう。
部屋の前につくと、滝沢がひどく困り果てた顔をして幸人様の部屋の前でうろうろしていた。
俺に気付き、ほっとした顔をして駆け寄ってくる。
「どしたの」
「幸人様が暴れて、手が付けられん」
「原因は?」
「…わからん。」
幸人様の部屋の扉をノックして声をかける。
しんとしたまま返事がない。
滝沢に扉の外で待機するように伝え、そっと扉を開けて中に進む。
部屋の中を見て驚いた。
なにもかもぐちゃぐちゃ。
花瓶は割れ、窓ガラスも割れている。
クッションは投げつけられたのか床に方々に転がり、テーブルはひっくり返りカーテンも破れて垂れ下がっている。
よくまあこれだけ暴れたものだ。
感心するよ。
「幸人様」
返事がない。
足元に気を付けながら寝室へ向かうと、シーツにくるまりベッドの上でしゃがみ込んでいる幸人様を見つけた。
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