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4

俺が長沢に呼び出されたのは、その次の日の放課後だった。隣の机から、そっとメモを渡された。

『放課後、教室に残ってて』

嫌な予感を覚えながらも、先輩に
『居残りで遅くなるので一時間自分の教室で正座していてください』
とメールを打つ。いつも放課後は俺を迎えに来てくれるから、鉢合わせたりしない様に上手くごまかすように先輩の喜びそうな内容でメールを送った。先輩からは
『『待て』だね!任せてくれたまえ!』
とハートマークがびっしり敷き詰められたメールが返ってきた。

携帯を閉じて、誰もいなくなった教室で一人長沢を待っているとがらりと教室が開いて長沢が現れた。

「ああ、悪いな。ちょっと駄犬の調教に手間取って」

…今、何かおかしいセリフが聞こえたんだが気のせいだろうか。

先ほどの長沢のセリフを反芻していると、長沢がにやりと笑って自分の髪をかきあげた。その仕草に、俺はえもいわれぬ自分を圧倒する雰囲気に気圧される。


―――――まさか、こいつ。


「あれ?なんとなくわかった?はは、さすが滝川先輩と付き合ってるだけあるね。」
「…お前、」
「はは、そう。篠田の勘、大当たり。俺、ドSなんだよね。」

やっぱりいいいいい!
てかこの人、『ど』を付けたよ!!

なんとなく、そんな気がしたんだ。先輩とずっと一緒にいて、その反対って言うのかな。雰囲気が対の物のような気がして。
そんで、そのドSが平凡な一般人の俺に何の用があるんだろうか。まさか、俺を調教しようと…!?

「じゃないから」

思っていたことがわかるのか!?俺の心配はあっさりと否定され、長沢はものすごく冷めた目で『お前みたいな平凡野郎調教しても面白くもなんともない』と言い捨てた。

「俺が欲しいのはさ、お前の彼氏。――――なあ、滝川さん。あの犬、俺にくれよ。」

長沢の言葉に、ひゅ、と息が詰まった。

「俺さ、人の犬にはほんとは興味ないんだけどさ。初めてあの人見た時に『こいつだ!』って思ったんだよね。犬のくせに、調教されてない。犬になりきれてない哀れな犬。毎日毎日お前に引っ付いて、調教してほしくて仕方ないって顔してさ。すっげえもったいねえって思っちゃったんだよね。」

まるで面白いおもちゃを見つけた子供のように話す長沢に胸がムカムカする。…初めに、俺がこいつに好印象を持てなかったのはこれだったのかもしれない。拳を握りしめて、ぎっと長沢を睨みつける。

「…先輩は、犬、なんかじゃない…」
「ほらあ、そういうとこ!だからお前じゃだめなんだよ。俺、言っただろ?お前、フツーのヒトなのにって。あの犬、ご主人様選びが下手だよなあ。きちんとしたご主人様の元なら、ものすごく幸せなのに。」

長沢の言葉に嫌悪を抱くも、俺はどきりとしてしまった。…確かに、俺はSになんてなれない。先輩の望む行為を自分からしてあげたこともない。


だって、無理だよ。どうして好き好んで、大好きな人を叩いたり傷つけたりしないといけないんだ?
俺は確かに先輩を殴ったりするけれど、それは別に長沢の言うように調教しようとしてなんかじゃない。無意識に出る防御反応って言うか、暴力振るってることには変わりないけどただそれだけで別に長沢の言うように犬扱いしてるわけじゃないんだ。


「お前じゃ、あの人幸せになれないよ。だからさ、俺によこせよ。俺ならあの人の満足いくまで罵って傷つけて、Мの喜びってのを味わわせてやれるんだよ。お前だって、今の状態がいいと思ってはないだろ?SでもないのにМに詰め寄られて、しんどくない?な、離れるのがお互いの為だって。」

俺は、握りしめていた拳をゆっくりとほどく。…そうなのかな。先輩は、俺じゃだめなのかな。

「…先輩を…、幸せに…」
「ああ、絶対だ。だから安心して俺にまかせろ」


ゆっくり頷こうとしたその時。俺の頭ががっしりと掴まれ、無理やり首を横に振られた。

「いーやでーすよー。俺は、かわいいわんちゃんを人に譲ったりしーませーんよー。」
「いだだだだ!いだいいだい!!」

それはもう思い切りぶんぶんと揺すられ、俺は思わず悲鳴を上げた。

離された頭を押さえながら振り向くと、そこには長沢に向け冷たい笑いを浮かべた滝川先輩がいた。

「せん、ぱ…」

…これ、だれ。怖い。こんな笑顔する人、知らない。

見たことのない表情に、怖くなって震える声で先輩を呼ぶ。すると先輩は視線を長沢から俺に向け、にこりと笑った。
それはいつもの優しい先輩の微笑みで、ほっとして後ろから回された手をぎゅっと掴む。先輩は、『大丈夫だ』とでも言うように抱きしめる俺の頭にキスを一つ落とした。

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