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3

義祖父母が、ひどくご機嫌で僕を部屋に呼んだのはそれから三日後のことだった。

「山本の本家の和音様が、お前を秘書として使いたいと仰ってくれた」

義祖父がいうには、和音様はこの前のパーティーで皆へのあいさつを兼ねて将来自分の片腕となるべきにふさわしい人材を探していたらしい。そこで義祖父が僕を勧めた所、和音様は年も若いし育てがいがあるだろうと僕を指名したそうだ。

ただし、和音様の義弟になることが条件らしく、僕は向こうの戸籍に入れられてしまうらしい。
恐らく、三日の間に和音様は僕が山本の戸籍に入っていないことを調べたのだろう。義祖父たちのことだ、きっとうまいこと僕が姓を変えたくないと言ったとかなんとか言ってお涙ちょうだいの話で戸籍が違うことをごまかしたんだろうと思う。

…正直に言うと、姓を変えたくはなかった。山本の戸籍に入ってしまえば、僕はもう完全に山本の人間にされてしまう。母の子であると言う唯一の僕の心の支えが、なくなってしまう。でも、僕にそれを拒否する権利なんてあるはずもなく、次の日には僕は義祖父母に山本の本家に連れられて行った。


本家に着くとそちらの執事長が義祖父母に何やら大きなジュラルミンケースを渡した。

「こちらが約束のものです。それでは、愛夢様は今日をもちましてこちらで責任を持ってお世話させていただきます。和音様とのお約束を決して違えたりは致しませぬように」

ジュラルミンケースを受け取った義祖父母は僕を一度も振り返ることなく本家の屋敷を去っていった。僕は先ほど執事長が言った言葉を何度も反芻していた。

約束の物…和音様との約束…


「待っていたぞ」


だけど、僕はその声に一切の思考を瞬時にして遮断された。声のした方、屋敷の中央にある階段の上にその声の主はいた。

「あ…」

あの時の、テラスであった男。

その人こそが、山本の本家の現当主。山本和音だった。


荷物を置くと、僕は和音様の部屋に呼ばれた。部屋に入ると、和音様がソファに腰掛けて扉近くに立ちすくんでいる僕を上から下までそれこそ舐めるように見た。なんだかその視線が怖くて、ズボンを震える手でぎゅっと握りしめる。

「き、今日から、よろしくお願い…」
「挨拶はいいからこちらへこい」

頭を下げようとする僕の言葉を遮り、和音様は立ち上がって隣の部屋についてくるように言った。言われるまま、和音様の後に続くとそこはどうやら寝室らしく、中央にとても大きなキングサイズのベッドがあった。


「服を脱げ」


言われたことが理解できなくて、思わず無言で和音様を見上げる。

「聞こえなかったのか?服を脱げと言ったんだ。下着もすべてだ」

僕はそれを聞いて真っ青になってがたがたと震えだしてしまった。つまり、この人はいまここで僕に全裸になれと言うのだ。訳が分からなくてただ震える僕を、和音様は逃がさないとでもいうようにやんわりと両肩を掴む。

「もう一度だけ言うぞ。服を脱ぐんだ。」

決して荒げることなく囁かれたその声は、一切口応えは許さないと僕に拒否権など与えないと言うものだった。

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