2
中学生になったある日のこと、僕は義祖父母に連れられ山本の本家のパーティーに出席した。義祖父母たちの屋敷も大きいと思ったが、本家はそれをはるかに凌駕するほど大きな屋敷だった。
今夜は本家の跡継ぎである山本和音(やまもと かずと)さんの大学進学祝いを兼ねた、正式な後継者発表のパーティーらしく義祖父母は周りの人間、特に本家の人たちへのご機嫌取りに必死だ。
僕は自分がなんだかとても浮いているような気がしていたたまれなくなって義祖父に声を掛けベランダで外の空気を吸いに行ってきますと会場を後にした。
屋敷のテラスに出ると、空には大きな満月が浮かんでいた。そういえば、母さんは満月が好きで二人でよくお月見をしたっけなあ。月に照らされて笑う母はとても優しげで、僕は母が義祖父たちのいうように僕を売っただなんて本当はこれっぽっちも信じてはいなかった。
母さんに、会いたい。
月を見て、封じ込めたはずの人間らしい感情が甦り涙が出そうになった。
「…きれいだな」
ふいに後ろから声を掛けられ、驚いてそちらを振り向くと月明かりに照らされついぞお目にかかったことのないような極上の美形な男がうっすらと笑みを浮かべ立っていた。
「…あ、はい…。綺麗な月ですね」
僕がそう返すとその男は笑みを浮かべたまま僕の隣までやってきた。
「見たことのない顔だな。初めてか?山本の分家の者か」
「…あ、はい…。」
正確に言うと僕はまだ山本ではないけれど、一応頷く。するとその男は僕の顎を掬い、顔を男の方に向けた。
「…!」
無理やり合わされた視線が意外なほどに至近距離で、じっと見つめられ思わず顔に熱が集まる。どうしていいのかわからず戸惑っていると、中から誰かを呼ぶような声が聞こえた。
「…ちっ」
男は舌打ちをして僕の顔を離すと、振り返りもせずにテラスから中へと戻っていった。
…一体、何だったんだろう…。
テラスに一人残された僕は何が何だかわからず、しばらくその場に呆然と立ち尽くしていた。
[ 437/459 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
top