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『つい』


それは、ただ一人八木沼だけが呼ぶ八木沼が付けた俺のあだ名だった。初めて遊んだ時に名前を聞かれ、『シュウ』と名乗った。八木沼はしばらくそう呼んでいたが、ある日お互いどんな漢字を書くのかという話になった。

二人で地面に名前を書いていく。

『沼岸終』

「お前の漢字、『終わる』って書くんだな。なあ、知ってるか?その漢字、『つい』って読むこともできるんだぜ。だからお前は今日から『つい』だ。」
「どうして?」

呼び方になんの違いと意味があるのだろうか、不思議そうに首を傾げる俺に向かって八木沼は太陽のような笑みを向けた。


「なんたって、太陽とひまわりは対だからな。知ってるか?二つで一つの事を『対になる』って言うんだ。だからお前は俺の『つい』だ!他の奴にその名前で呼ばせるなよ!」



「…忘れてた、くせに…。」

小さくつぶやいた声は自分で思う以上に震えていた。八木沼が悲しそうに微笑み、俺の頬に手をそっとあてる。

「…悪かった。焦ってたんだ。この街にお前がいるんだと思うと早く会いたくて、探し出したくて。声をかけてきた出倉の話が、あまりにも核心に近いものだったから。
突き落とした張本人なら、当たり前だよな。
そんなに深くも考えず、話の後、名前を聞いて同じ名前だったからただそれだけで…。」

本当に申し訳ない、自分が情けないと何度も頭を下げる八木沼。そんな八木沼の姿に、怒りや忘れられていた悲しみなんかよりもやっと気付いてくれた喜びの方が大きくなっていく。


―――だって、気付いてしまったんだ。ほんとは俺は、出倉と間違われて失望して諦めたんじゃなく、ただ早く俺の元に戻ってきてほしかったんだって。


りんのついは、ここだよって叫びたかったんだって。

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