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10

俺は出倉から呼び出され、校舎裏に来ていた。朝登校すると同時に腕を引っ張られ有無を言わさず連れられたのだ。小柄なくせして、結構力が強い。やっぱり男なんだなあとどこか他人事のように考えていたら地面に思い切り投げ倒された。

「痛って…、なに?」

尻もちをついたまま見上げると、出倉は怒りに満ちた目で俺を睨みつけていた。

「…何を言ったの」
「何が?」
「とぼけないでよ!八木沼君になんか吹き込んだんでしょ!」

怒鳴られている内容が全く理解できなくて、首を傾げていると出倉がゆっくりと近づいてくる。見た事も無いほど歪み狂気の色を宿すその目に恐怖を感じて尻もちをついたまま後ずさると、目の前に来た出倉に思い切り前髪を引っ張られた。

「いっ…!」
「言え!言えよ!何言ったんだ!…お前が、何か言わなきゃこの僕に八木沼くんが別れようなんて言うはずがないだろ!」

出倉の言葉に驚いて目を見開く。…なんだって?八木沼と、別れたって?
どうして。八木沼は、出倉を俺だと思っているはずなのに。あんなに溺愛していて、別れようなんて信じられない。

「…お前は、いつもいつもそうだ。なんの取り柄もないくせに、僕より劣っているくせに!お前なんて、お前なんて…!あの時、見晴らし台から落ちた時に死んでしまえばよかったんだ!!」


「死なれてたまるか」


俺に向かって振り上げられた出倉の手を、後ろから掴んだのは八木沼だった。急に現れた八木沼に、出倉は驚いて慌てて俺の前髪から手を離す。

「ち、違うの!八木沼君、これは違うの!」

おろおろと狼狽えて必死に言い訳をする出倉を無視して、八木沼は膝をついて俺の前にしゃがみ込んだ。

「…大丈夫か…『つい』」


『つい』


八木沼に呼ばれたその名前に、今度は俺が驚いて顔を上げて目を見開いた。目の前にいる八木沼と目が合う。
八木沼は、見たことがないほど優しい、そしてどこか悲しい目をしていた。

八木沼は俺の頭を軽く撫でると、立ち上がって出倉と向かい合う。

「や、八木沼く…」
「今の話、聞いたぞ。…お前が、あの時の奴だったのか。」

八木沼の言葉に出倉がびくりと体を竦ませる。
そうだ。確かにさっき、出倉は見晴らし台から落ちた時のことを言った。それはつまり出倉が突き落とした張本人と自白したことに他ならない。八木沼はぎゅうと拳を握りしめ、がん!とそばにあった木を殴りつけた。

「…本当なら、お前を殴ってやりたい。だが、お前にどんな言い方をされたのであってもお前を大事な奴と勘違いしたのは俺の失態。出倉。今回だけだ。今回だけは、これで見逃してやる。だが、次にもしこいつに何か危害を加えようとするのなら…。それがお前が直接手を下したわけではなくても、俺はお前を全力で排除してやる。」

八木沼の怒りに満ちたオーラに、出倉はぶるぶると震え俺を見て悔しそうに唇を噛みしめた後無言でその場を去っていった。


俺は、目の前で起こったことが上手く理解できなくてただただぼんやりと座り込んでいた。

「…立てるか?つい」

八木沼が、そっと俺を引き起こす。繋がれた手に、どくんと心臓が高鳴る。

諦めたのに。諦めた、はずなのに。まるで宝物のように触れられ、今まで目を背けていた奥底にしまいこんだ自分の気持ちがじわじわと浮上してくる。

「…助けてくれて、ありがとう」
「ああ。約束したろ?次は必ず俺がお前を守るからって。なあ、つい。」

にこりと微笑みかけられ、思わず顔を逸らしてしまった。

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