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9 八木沼side

「八木沼くん、ごめんね!ちょっと先生に呼び出されちゃって…。どうしたの?」

一人残された教室で佇んでいると周が沼岸達と入れ替わりに教室へ戻ってきた。声を掛けられても微動だにしない俺を不思議そうに見上げる。

「…周」
「なあに?…そこ、沼岸君の席だよね。どうしたの?」

周に言われてはっとして自分の手を見ると、俺は無意識のうちに沼岸の席に手を置いていた。自分で自分の行動が分からなくて手をじっと見る。

「八木沼君、いつも僕が話しかけるから沼岸君の事あんまり好きじゃないんだよね?でも、沼岸君の事嫌いにならないでね。あんな平凡で根暗だけど、僕、どうしてもほっとけないんだあ。彼が一人ぼっちで寂しいんじゃないかって。だって、あんななりだし、皆友達になんてなりたがらないから…。僕が話しかけなかったら、沼岸君ほんとに一人ぼっちになっちゃうでしょ?」

その言葉に思わず目を見開いて周を見た。これは誰だ。
周の言い方は、心配しているように見せかけて明らかに沼岸を蔑んでバカにしている言い方だ。

その時の、周の目を見てまた気付く。


…知っている。俺はこの目を知っている。


それに気づいた時、俺の中でずっとずっとくすぶっていた違和感の正体が明らかになった。

「…周、別れてくれ。」

気づいた時には俺の口からはその言葉が出ていた。



次の日、俺は朝一番から他のクラス中を回って昨日沼岸と一緒に帰った奴を探し当てた。話があるとそいつを校舎裏につれだす。

「話って何?」
「いや…、急にこんなこと聞いて悪いが、お前、俺の事知ってるのか?その、今のじゃなくて、昔の俺を…」

昨日こいつは俺を見た時に『めっちゃ久しぶり』と言った。俺がこの町にいたのは小学2年の頃のほんのわずかな間だけ。つまり、こいつはその頃の俺の事を知っているに違いない。

「やたら人気のある転校生がいるって言ってたけど、八木沼だったんだな〜。びっくりだ。俺部活忙しくてそう言う情報ほんと耳に入れる暇なかったし。
んで、お前の昔の事、知ってるかだっけ?そりゃもちろん知ってるよ。お前は俺の事なんか覚えてないだろうけどさ、お前公園で有名だったし。決まった奴としか遊ばないって。たまにしか来ないくせにいつも一人の奴としか遊ばなかっただろ?それが誰だったかは忘れちまったけどさ、そいつ以外が近づいても心底嫌そうな顔して跳ねのけてたよな」

笑いながら言うそいつの言葉に緊張で手が震えるのが分かる。それが誰かは覚えていないのか。だが、今から聞くことの答えでそれが誰かはわかるはずだ。

「…沼岸とは、長いのか」
「うん?小学校から一緒だからな。でもつるみはじめたのは中学になってからだけど」

俺はごくりとつばを飲み込んで、口を開いた。

「沼岸の、下の名前を教えてくれないか?」
「え?あいつの下の名前?
――――――――シュウだよ。沼岸終。『終わる』って漢字を書くんだ」

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