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8 八木沼side

やっと手に入れることのできた愛しい周。だが、俺は何故か違和感を拭えなかった。
どこか、何かが違う。
いいや、そんなはずはない。

心の鳴らす警鐘を何度も何度も無理やり押し込める。
周は、毎日俺の隣の沼岸に挨拶をする。地味で根暗な沼岸をほっとけないのだという。当の沼岸はそんな優しい周の気持ちを知らずにいつも適当な相槌を打つだけだ。

なんだこいつは。せっかく俺の優しい周がわざわざ気遣って接してくれているのに。

俺は周に優しくされる沼岸が心底憎かった。

周も周だ。10年振りにようやく出会えたというのに、なんで俺だけを見ようとしない。
沼岸に辛らつな言葉を投げつける俺を、沼岸はいつも無表情でちらりと一瞥するだけだ。

その態度がますます俺を苛立たせる。

俺は周に構われる沼岸に嫉妬し、心から嫌悪していた。


そんなある日、役員会で遅くなった俺は教室で待っているであろう周を迎えに行った。だが、教室にいたのは周ではなく沼岸1人だった。
最悪だ。よりによって一番嫌いなこいつか。
舌打ちをして周の席に座り、頬杖をついて周を待つ。

だがその間、俺の意識は神経一本に至るまで斜め後ろにいる沼岸に向かっていた。
ぱらり、と静かに本のページをめくる音だけが聞こえる。ただそれだけのはずなのに、その音がする度に自分の心臓が早鐘を打つ。ちくしょう。なんだってこいつのことばかり考えてしまうんだ…!

「…おい」

気が付くと、俺は後ろを向いて沼岸に声を掛けていた。理由はよくわからない。いや、こいつがずっとここにいたなら周がどこに行ったか知っているかもしれない。無理やり言い訳をしてこちらを見た沼岸に周がどこに行ったか知らないか尋ねると、不愛想に『知らない、携帯でもかけろ』と返された。もっともな返しなんだが、まるで話しかけるなとでもいうような沼岸の態度にイライラが募る。
これだけ俺が気にしてるってのに、何でお前は俺を見ようともしないんだ…!

沼岸の態度に腹が立って、ちょうど二人きりなら周にもう近づかない様にくぎを刺してやろうと沼岸の席の前まで移動する。本に俺の影が落ちて沼岸が何事かと俺を見上げた。

「…お前はなんでいつも周にくっついてるんだ。」
「俺がくっついてるんじゃないよ。あいつが近寄ってくるんだ。」

沼岸の答えにそんなばかな、とバカにした笑いが込み上げる。周が、お前に近寄っていくだと?

「はっ、そんなわけあるか!周がお前みたいな平凡に好意を持つわけねえだろ!」

そんなことあるはずがない。周がお前みたいなやつを好きになるはずがない!

「…確かに好意を持ってるわけじゃないだろうね」

沼岸の答えにいらだって、心底バカにして笑うと、沼岸は一つため息をついて、そうこぼした。意味が分からない。確かに周は誰にでも優しいから、沼岸みたいなやつにも善意で優しく毎日挨拶するんだろう。だが、こいつの今の言い方はまるで周が沼岸を嫌っているかのような物言いに感じた。

すぐに本に目を落とした沼岸を、俺はじっと見つめた。…こんなにじっとこいつを見るのは初めてじゃないだろうか。だっていつもこいつは俺を見ようとはしないし、関わろうともしない。俺も、自分からこんなに近くに長くいるのは初めてだ。

…だが、どこか懐かしい。

嫌いで仕方のないはずのこいつの傍は、何故か昔から知っているような空気が流れていた。…いや、知っている。この空気を、俺はずっと昔から知っているはずだ。
本を読むために伏せがちになっている目をじっと見る。俺の視線に気づいた沼岸がまた俺を見上げた。逸らされることなく合わさった視線。その目が俺を捕えた時、俺の心臓が激しく大きくひとつ跳ねた。


…知っている。この目は、ああ、この目は。


思わず手を伸ばしそうになったとき、教室の扉ががらりと開いて沼岸の友人が入ってきた。

「悪い!シュウ、待ったか〜!あれ?八木沼?うわ!めっちゃ久しぶり!」

『シュウ』

そいつの口にした名前に体が硬直する。沼岸の名前だろうか。こいつも、『シュウ』というのか。
教室に入ってしたそいつに声を掛けようとすると沼岸がすぐに立ち上がり、そいつの手を掴んで教室を出て行ってしまった。

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