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6 八木沼side

俺には、唯一と言っていいほど大事にしていた友人がいた。初めて声を掛けてきたときに冷たくあしらうと、とても傷ついたような顔をした。そんな顔のまま帰したくなくて、思わず引き止める。

『遊んでやってもいい』

そう言った俺にとても嬉しそうに満面の笑顔になったそいつを見て、俺はそいつの笑顔を独占したくなった。時間の許す限り公園に行き、そいつを捕まえて遊ぶ。俺は滅多に公園に行けなかったが、行くと必ずいるそいつを見つけるたび心臓が高鳴った。一度だけ俺が行ったのにそいつがいないことがあって、次に見つけた時に俺はそいつにひどく怒った。それからというもの、そいつは必ず公園で俺を待つようになった。いつ来るかわからない俺をずっと公園で待っていてくれることを考えるとものすごく満たされた。

俺がそいつと遊ぶようになって、いつも公園で一人でいる俺を遠巻きに見ていたやつらが自分たちと遊べとでもいうように声を掛けてくようになった。冗談じゃない。俺が一人でいるときは敬遠して声一つ欠けてこなかった奴らが、今さら媚を売ってくるなんて許せなかった。俺は自分で言うのもなんだがガキの頃から整った顔立ちとその生まれ持った雰囲気で、どこか近寄りがたい高嶺の花扱いを受けていた。
そんな中、声を掛けてくれたのがそいつだけだった。
いつだって、まっすぐにまがうことのない純粋な気持ちを俺にぶつけてきてくれる。俺にはそいつだけでいい。

ある日、そいつが俺に向かって俺の事を太陽の様だと言った。

「お前はひまわりだな。知ってるか?ひまわりはな、太陽のあとばっかり追ってくるくると動くんだ。だからお前はひまわりだ。いつも俺の後を追ってこいよ!」


俺がそういうとそいつはものすごく嬉しそうに頷いた。
お前は間違ってる。俺こそがお前の後を追っているのだ。ひまわりに日を当てるのをやめられないお前だけの太陽になれたなら。幼いながらにそう思った。

そんなある日、ばかみたいに金魚の糞をぞろぞろとくっつけた女みたいな顔をした奴が俺たちに話しかけてきた。そのガキは俺のひまわりをばかにした。こいつをバカにするやつなんか誰が遊ぶものか。まさか自分が断られるとは思っていなかったのだろう。そのガキは俺を思い切り押してきた。咄嗟の事で避けきれなくて、木の柵にぶつかる。途端に柵が崩れ、俺は見晴らし台から落ちてしまった。

だが、怪我をしたのは俺ではなく俺を助けようと一緒に落ちたあいつだった。

病院についても、大したことないけがだと言われても俺は涙が止まらなかった。俺のせいだ。大事な大事なそいつに怪我をさせてしまった。自分が情けなくて悔しくて、ますます涙が溢れてくる。

「今度は、俺が守るから!」

そういう俺に『俺が無事でよかった』と笑うそいつを、俺は何があっても守ろうと決めた。
だが、それからすぐに父の会社の都合で引っ越しを余儀なくされた。それを伝えるとあいつは泣きながら『行かないで』と言った。俺だって離れたくない。でも子供の力でどうなることでもなくて。俺はそいつに約束をした。


「絶対、会いに来るから!忘れないから!どこにいても、どんな姿になってようと、必ず見つけるから!」


それから、どこに行っても俺はそいつの事を忘れることはなかった。
でも、幼いころの記憶なんて曖昧なもので。月日が経つにつれそいつの存在は色濃くなっても顔だけが薄ぼんやりと消えていく。唯一、忘れずに済んだものはそいつの笑顔と俺を見るときのそいつの目だけだった。

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