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4

八木沼は高校二年になってすぐに、転校生として俺の前に現れた。教室に現れた八木沼を一目見ただけで、俺は名前を聞く前にすぐにりんだと気がついた。あの頃よりも端正な顔立ちになって、男らしくたくましくなって目の前に現れた八木沼に心臓がばかみたいに早くなった。

会いに、来てくれた。約束を守ってくれた。

ばかな俺は八木沼を見て勝手にそう思い込んで感動すらしていた。先生に促され、八木沼が自分の席へと向かう。そこは偶然にも俺の隣。緊張と興奮、喜びで俺は満面の笑顔で八木沼に声を掛けた。

「と、隣同士よろしく」

だが、八木沼の口から返ってきた答えは俺の予想していたものと遥かにかけ離れたものだった。

「はあ?俺がお前みたいなしょぼい平凡野郎とよろしくなんてするわけねえだろ。馴れ馴れしく話しかけてんじゃねえよ」

そう言ったきり前を向き、こちらに視線をよこそうともしない八木沼に俺は何も言うことができなかった。
八木沼はその容姿と才能で、あっという間に学園の人気者になった。転校してきてから毎日のように呼び出しをされ、告白をされている。だが、八木沼の返す答えはいつも同じだった。


『大事な子がいるんだ。そいつしかいらない。ずっとずっと昔に少しの間遊んだだけだったけど忘れられない。そいつを探してるんだ』


その話を耳にした時、俺は震えた。俺の事じゃないのか。でも、八木沼は俺に気付かなかった。探しているのが俺だったなら、あの時の八木沼の言葉が本当なら八木沼は俺に気付いたはずだ。
忘れないと言った。必ず俺を見つけると言った。
その言葉を信じていた俺は、不安に駆られながらも八木沼が俺に気付いてくれることをひたすらに願っていた。


そんなある日、八木沼が出倉と付き合いだしたといううわさを聞いた。出倉が、ずっと八木沼が探していた相手だと。


声を掛けたのは出倉からだったらしい。

『僕の事覚えてる?昔公園で遊んだんだよ。八木沼君、見晴らし台から落ちたことあったよね。あの時は僕、君が死んじゃったんじゃないかってすごくびっくりした。でも、怪我も何もなくてほんとよかった。あれから八木沼君、すぐに引っ越しちゃって僕悲しかった…』

その言葉を聞いて、八木沼は出倉を俺と思い込んだらしい。

『ずっとお前だけを想っていた』

そう言って出倉に即座に交際を申し込んだのだと。


それを聞いた時、俺は八木沼を諦めた。失望したのだ。自分と、出倉を間違われたことに。


――――――なぜなら、あの時八木沼を突き落した張本人こそ出倉だったからだ。


出倉とは中学で同じクラスになった。公園で俺がずっと八木沼を独占していたのを覚えていたらしく、自分のその容姿を利用して狡猾に俺をいじめの対象にした。高校になってますますかわいらしくなった出倉はここでお姫様のように扱われるようになって今度は俺を引き立て役にした。
小動物のような庇護欲をかきたてる演技をし、ほとんどの人間を虜にした。
そして、俺を常に傍らに置き『僕、沼岸くんがいつも一人ぼっちなのが心配で…』なんて言って俺を周りの奴らに蔑ませるのを心から喜んでいるようだった。

八木沼と付き合うようになってから、出倉はますますご機嫌だ。俺が八木沼と一番仲が良かった人間だと知っているのでその八木沼から今は蔑まれる俺を見るのが楽しくて仕方がないらしい。

事実八木沼は出倉が俺と話しているとすぐにやってきて出倉を連れ去る。その際に、けなしていくのを忘れずに。


俺はそのたびに、あの時受けた完治しているはずの右肩の傷がずきりと痛むのだった。

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