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それから幾日か過ぎたある日、俺は廊下を掃除していたときに目の前を通った生徒の後ろのポケットから出ているストラップに目を奪われた。
あれは、俺が壊してしまったストラップと同じ物だ!
「な、なあ、ちょっと!待ってくれ!」
慌てて腕をつかんで引き留める俺を何事かと驚いて見てくる。
「いきなり悪い。その、携帯についてるストラップなんだけど…」
「これ?」
その生徒はポケットから携帯を取り出して俺にストラップを見せてくれた。
間違いない。いくら探しても見つからなかった、黄色のインコのストラップだ。
「急にこんなこと言うの申し訳ないんだけど、そのストラップ、オレの持ってる色と交換してもらえないか?」
ポケットから、青いインコのストラップを出して相手に見せる。
「頼む。どうしても黄色が欲しいんだ。どこを探しても見つからなくて、仕方なしに青いのを買ったんだけど…」
その生徒は少し考えるかのように顎に手をやりじっと俺を見た。自分でもずいぶん情けない顔をしているのがわかるように相手も俺の顔を見て何か事情があると感じてくれたんだろう。
「いいよ」
「!あ、ありがとう!」
笑顔で承諾してくれて、俺もほっとして笑顔になった。
青いインコのストラップを相手に渡そうと差し出した瞬間、
「―――――だめ!」
伸ばした腕に、原口がぎゅうとしがみついていた。
「は、原口?」
「やだ!北島、やだやだやだっ!」
ストラップを持つ俺の腕にぎゅうぎゅうとしがみつくので、相手にストラップが渡せない。
「原口、ちょっと離してくれ」
何とかなだめて腕をほどこうとしても首を激しく横に振り、全く力を緩めない。交換を申し出た生徒も困惑気に首を傾げ、どうしようかと思っているようだ。
しかたない、今はとりあえず原口をなんとかしないと。こんなに泣きそうに俺にしがみつくってことは何か困ったことがあったんだろう。
「悪い、さっきの話、また今度でいいか?」
「うん、僕は別にかまわないよ。」
気を悪くするでもなく快く承諾してくれたのでありがとうと礼を言う。
「あ、そうだ。じゃあクラスと名前を…」
「…!北島っ!」
後で交換してもらいに行こうと相手の事を聞こうとしたら原口が俺の名を呼んでぼろぼろと泣き出した。
な、なんだ!?どうしたってんだ!?
「わ、わるい。また…」
「…僕はいいけど、その子の話をきちんと聞いてあげた方がいいよ?」
「…?あ、ああ…。ありがとう」
それはもちろんそうするつもりなんだけど、そいつの言い方がなんだか含みのある言い方でちょっと首を傾げながら会釈をして原口を連れてその場を去った。
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