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原口の携帯を手に廊下を歩く。
歩く度、ちりんちりん、と鳴る小さな鈴の音。ちらりと携帯に目を落とす。青いインコが、鈴と一緒に揺れている。
これは、俺が壊してしまったストラップを探して見つけた色違いの物だ。
―――まだ、着けていてくれてるんだ。
揺れるストラップに、思わず顔が綻ぶ。
鳥小屋の近くまで行くと、原口の話し声が聞こえた。
「………って、……じゃん……」
何を話しているんだろうか。というか、誰と?
その疑問はすぐに吹き飛んだ。
「それで走ってきたのか?」
伊集院会長。
声の主がわかり、がくりとその場にうなだれてしゃがみ込む。
ちくしょう。いつになったら俺はこの人に勝てるんだ。
「だって、だって変なんだ!あんなの、あんなの、おかしいよ!」
原口の言葉にぴくりと耳が反応した。何かひどく焦っているようだ。おかしい、って、なにが?
今行る場所が丁度死角になっているのをいいことに、俺はいけないことだと知りつつ二人の話に耳を澄ませた。
「いや、別におかしくないと思うぞ?だって、北島は晴哉が好きなんだから触れたくなるのは当然だろう」
オレの話かよ!
内容からしてさっき頭を撫でたことを言っているんだろうか。じっと息を潜める。
「だって…、と、友達なのに、気持ちワルイ…。」
効果音があったとすればズガン!と音が入っているだろう。
――――気持ちワルい。
そうか。やはり原口の中で俺は友達以上にはなれなかったんだな。
「いや、晴哉の気持ちは至って普通だと思うぞ?」
会長、俺にとどめを刺したいのか。俺が憎いのかそうなのか。
原口の言葉と会長の言葉に俺は若干潤んだ目を押さえる。ちくしょう。なんだってんだ。涙め、出てくんじゃねえ。
「でも、なんだかんだ言ってあいつからもらったストラップ、大事にしてるんだろう?」
「しょ、しょうがないじゃん!だって、北島が俺の壊したから!ほ、ほんとは伊集院さんのくれた黄色が俺のお気に入りだったのに、同じのないから仕方なくつけてるだけだもん!」
そこまで聞いて俺は死角から一歩踏み出し、二人の前へ姿を現した。突然現れた俺に、原口が驚いて目を見開く。
「き、きたじま!あ、い、いつから…、」
「…俺がお前のストラップ壊したから、ってところからかな…」
俺は原口に嘘をついた。ほんとはもう少し前から聞いていたなんて言いたくなかった。今肯定されると、きっと俺は立ち直れないから。
俺は、自分の手の中にある原口の携帯からストラップを外した。
「あ…!な、なにす…」
「…ごめんな、原口。やっぱ、嫌だったんだな。渡した時、嬉しそうにしてくれたからこれでいいって満足してくれたんだと思ってた。」
「…っ!」
「…大事なストラップ、壊しちまってごめんな。」
俺は原口に携帯を渡すと、くるりと二人に背を向けて振り返らずにその場を去った。
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