4
「そ、総長…」
「や、違うんすよ。こいつ、昼間俺らのことばかにして…」
「そ、そうそう。不良は最低だ、嫌いだって。総長をバカにするやつはおれらがシメないと…」
「…嫌い?」
必死になって輝に言い訳するそいつらの言葉に、輝が俺をじっと見る。その目を見た俺はなんだか無性に悔しくなった。
なんなの。俺がお前をバカにするとでも思ってんの。…輝は俺よりもそいつらを信じんの。
俺はふらりと立ち上がり、不良たちの横をすり抜けようと歩き出した。
「おいこら、待て!」
「やめろ」
歩き出した俺を引き止めようとした不良を輝が制する。ふらりふらりと歩き、輝の横を通り過ぎる時。
「…そいつらの言うとおりだ。不良なんて最低のクズだ。嫌いだよ」
俺は捨て台詞のように一言つぶやいて、振り返ることなくその場を去った。
家に帰ると俺の顔を見た母親が
「なんなのそれ!ぶさいくがよけいにぶさいくになっちゃったじゃない!」
と叫んだ。ひどい母親だ。むっとして部屋に戻ると、湿布や傷薬を持ってきてくれた。
「あんた、ほんとに弱いのねえ。輝くんに守ってもらいなさいよ」
「…なんで俺が輝に守ってもらわないといけないんだよ」
やられたのはその輝の仲間にだってのに。あいつは、俺よりも仲間を信じたんだ。俺が輝をバカにしたと思ってるんだ。俺なんかを守るはずなんてない。
自分で思っておきながら、胸がずきりと痛んで泣きそうになる。ベッドに転がり背中を向けると母親がぽん、と俺の頭を叩いた。
「ばかね。輝君にとってあんたはいつだって一番なんだから。何があっても輝君はあんたの味方に決まってるでしょ」
だから輝君に言って仕返ししてもらっちゃいなさい、などと笑いながら部屋を出て行った。
俺は母さんの言葉にさっきよりも泣きそうだった。
…ほんとに?
輝の中で、俺は一番なの?
じゃあ、どうしてあいつらの言うことを信じたの…。
…俺を側においてくれないの…。
殴られたせいか全身がだるく、俺は目を閉じるとすぐに闇に飲み込まれていった。
さらり、さらりと髪が優しく梳かれる感覚にふと意識が浮上する。
「…今、何時…」
「夜の11時だ」
ふいに聞こえた声にぱちりと目を開ける。目の前に、じっと俺を見つめる輝がいた。
「…何しに来たの」
「……」
何も言わずただじっと俺を見つめる輝に胸がむかむかしてくる。
「…悪いけど今お前と一緒にいたくない。勝手に入ってきたなら帰ってくんない?お前が出てかないなら俺が出てくし…っ!?」
起き上がってベッドから降りようとしたら、輝が俺の腕を掴み無理やりベッドに転がしたかと思うといつものようにすっぽりと俺を抱きこんだ。
「なにす…ッ、いっ…!」
ぎゅっと力を込めて抱きしめられたその時、腕と背中にびり、と痛みが走り思わず顔をしかめて声を出した。それに気付いた輝が慌てて腕をそっと離したかと思うとおもむろに俺に覆いかぶさり俺の服をめくり上げた。
「なっ、なにすんだよ!」
露わになった俺の体には、あちこちに青やら赤やらの痣が付いていてそれはもう悲惨なものだった。急な行為に驚き大きな声で抗議すると輝は眉を寄せそっと俺の体の痣を撫でる。
「おいっ…」
「…あいつら…こんなに洋太に…。許せねえ…」
やっぱぶっ殺しとくんだった、などと物騒なことをつぶやく輝に目を見開く。
「何言ってんの。お前の仲間じゃん。お前のために俺をシメたって言ってただろ?俺がお前をバカにしたからだって。お前だってあの時そう思ったんだろ?なんでお前怒ってんの」
「そんなこと思ってねえ!!」
鼻で笑うように言うと輝が辛そうに眉を寄せたまま叫んだ。
わっかんねえ。なんで輝は怒ってんの。
「なに?わけわかんない。お前、あの時あいつらの言うことおれに聞き直したじゃん」
それって、俺がそう言ったんだって信じて聞いてきたってことだろうが。
俺の言葉に輝が傷ついたような顔をして唇を噛みしめた。
「…お前が…、不良、嫌いだとか言ったっていうから…」
「…ああ、言った。不良なんて最低のクズだ。嫌いだ。」
俺を信じないお前なんて嫌いだ。
泣きそうになって顔をそらすと、頬にぽつりと雫がかかる。何事かと目を向けると、そこにはぽたぽたと涙を流す輝がいた。
「な…」
「…なんでそんなこと言うんだよ…。俺、何のために総長にまでなったと思ってんの?
―――――――お前が、不良が好きだって言ったから不良になったのに!」
輝の叫びに、目が点になった。
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