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6

「…幸。俺はお前が嫌いだ」

荘司が、ぽつりとつぶやく。その言葉に、幸は憤慨して荘司に食いついた。

「な、何言ってるんだ!友達にそんなこと言っちゃいけないんだぞ!謝れ、謝れよ、荘司!」
「お前と言うやつは…、優しいコウにそんなことを言うだなんてなんて醜い心の持ち主なんだ!王よ、聞きましたか?ショージが神子などであるはずがない!友人を解放するように頼むどころか、嫌いだなどと言って悲しませるなど!」

幸が叫ぶと同時に、ビショップが王に目を覚ませと言わんばかりに必死に訴える。荘司は悲しそうに眉を寄せ、ふるふると首を振った。

「…じゃあ、お前はどうして友人に対して『俺の方がきれいだ』とか『お前は嫌われ者だ』なんて言えるんだ?
なあ、ビショップ。幸が優しいと言うのなら、なぜ幸は俺が村中の人間から迫害されあんたたちからも暴行を受けているのに助けてくれなかったんだろうな?…あんたらのいう優しさってのは、どういうものなんだ?」
「そ、れは…」
「な、何言ってるんだ!荘司が嫌われるのは荘司が醜いからだろ!?殴られたりするのだって、荘司が悪いからだ!」

荘司の言葉に口ごもり、ビショップは目を泳がせる。助けを求め戦士と魔術師をちらりと見ると、二人も同じように口を噛みしめ俯いていた。

「…俺、そんなに醜いかな?見た目が幸のようにきれいだったなら、せめて友人として位は仲良くしてくれたのかな?」

三人が、俯いた顔を上げ荘司を見上げる。その顔を、その言葉を聞いて、初めて皆自分がいかに愚かであったかを悟らされた。
自分たちはなんと愚かであったことか。神子を守る身でありながら、幸の見た目の美しさに囚われその幸に慕われている平凡な容姿をした荘司に嫉妬した。こんな凡庸な人間が美しい幸の傍にいるだなんてと、釣り合わないからと迫害した。
いつも無表情で感情を表に出さない荘司を冷たい人間だと決めつけ、その人間の内面までをきちんと見ようとはしなかった。占い師の言葉通りに、荘司を知ろうともせずに悪魔だと決めつけ手ひどく扱った。

一緒にいる間、無表情だった荘司がとても辛そうに微笑んでいる。それは皆が初めて見る荘司の本当の姿。

その姿に、皆後悔で胸がぎしぎしと締め付けられる。抱きしめたい。抱擁して、跪いて許しを請い微笑んでほしい。
皆が口を開こうとした時、荘司はふと微笑んだ。

「…王はさ、そんな俺を神子だとか関係なく好きだと言ってくれた。何の取り柄もない、幸のように美しくもないこの俺をそのままでいいと言ってくれたんだ。…神子より、俺を選んでくれた。だから、俺はこの人にすべてを捧げる。幸。俺はお前が嫌いだったよ。でも、なんでかな。今はお前に対する憎しみなんてない。
…王が俺を選んでくれて、お前に、よかったなって。嫌われ者のお前を好きだって言ってくれるやつがいてよかったなって、言ってほしかった。」

荘司は、嫌っていながらも心のどこかで幸が変わってくれればと。いつか目を覚ましてくれればと願っていた。
だが、幸はそんな荘司の願いを踏みにじる。

「な、何言ってんだよ!そんなこと、言うはずないだろ!?なんで、なんで俺よりお前が選ばれたのに、喜ばなきゃいけないんだよ!お前はいつだって俺より下だったんだ!今でもそうじゃなきゃいけないんだ!俺よりもお前が好かれることなんて、あっちゃいけないんだよ!」

幸の言葉に、荘司は目を伏せ俯き、幸の傍にいる三人は信じられないと言った顔で幸を凝視した。
アレク王は荘司を強く抱きしめ、その目元にキスを落とすとさっと手を挙げた。

「…最後の審判が下された。貴様らは世界の外れに追放だ。安心しろ、ショージを迫害していた貴様らの村の奴らも同罪だ。そこでじっくりと己を見つめ直すのだな。」

王の合図とともに兵士たちが幸たちを無理やり立たせ、連れ出そうとする。幸は激しく暴れ抵抗し、三人は項垂れ大人しく従った。

「離せ!離せよ!なんで、なんでなんで!神子は俺だ!荘司は黒いじゃないか!金に輝く姿を持つのは俺なのに!こんなの何かの間違いだ!」

じたばたと暴れる幸に、王は心底呆れたような顔をした。

「…先ほどの話を聞いていなかったのか。いいことを教えてやろう。この世界には魔術師などのようにいくらでもその容姿を魔法や道具で変えることのできる者がいる。そういったまやかしに惑わされぬように、代々、世界の王を継ぐものにはその相手の真なる姿が見ることのできる心眼が備わるのだ。…つまり、私の目には醜い心を持つ貴様は真っ黒に見えるのだよ。」

王の言葉に、その場にいたもの全てが驚きのあまり言葉を失った。
幸は顔を真っ青にして、がくりとその場に崩れ落ちた。そして、虚ろな目でぶつぶつとなにやらつぶやきながら兵士に抱えられ玉座から姿を消した。


誰もいなくなった玉座の間で、王は荘司がじっと俯いているのに気付き顔を覗き込んだ。

「…どうした?」
「…あんたは初めから知ってたのか?その、俺が、神子だって…」

先ほどの言葉が真実ならば、恐らく王の目には荘司の神子の輝きが映っていたはずだ。荘司は自分が神子であるなどとは思ってもいなかった。だから、荘司は王が神子など関係なく自分と言う人間を好きになってくれたのだと思っていた。でも、それは間違いで、初めから神子であることを知っていたのなら。神子である自分だから、王は好きになったのだ…。
自分という人間自体には、やはり価値はないのだ。そう思うと、荘司はとても悲しくなった。

「知らなかった」
「は…?」

荘司は思わず間抜けな声を出して聞き返してしまった。

「確かに私には心眼が備わってはいるがな、それは自分で意図したときにのみ開かれるものなのだ。お前たちが現れた時、私は心眼は開いてはいなかった。…正しくは、開く暇もなくお前一人にくぎ付けになったというべきかな。それほどまでにお前は私を惹きつけたのだよ。私という魂が、お前という魂に惹かれたのだ。
だからお前を抱いたとき、周りが金色に光って驚いたのだ。なんで明かりが強くなったのかと不思議に思った。お前の乱れる姿をはっきりと見られるようにとお前が明かりを強くしてくれたのかと…」
「ば、ばか!んなわけねえだろ!」

あっけらかんと言う王に荘司が真っ赤になって言うと、アレク王は優しく微笑んだ。

「そうだ、ショージ。それでこそお前だ。つらい、悲しい顔などお前には似合わない。これからは私がいつもお前を支えよう。だから、笑っておくれ。私のために、常に幸せな顔でいてくれ…」

アレク王の心からの言葉に、荘司はじんと胸が熱くなった。もう疑うまい。己を卑下しまい。この王は、本当に自分という人間を欲してくれているのだ。

「…あんたが俺を望む限り、俺は幸せだよ。そのかわり、あんたも幸せな顔して笑っててくれないと嫌だ。…俺を幸せにしてくれるつもりなら、あんたも幸せになってほしい…」

恥ずかしそうに微笑んで少し俯く荘司の頬を挟み、アレク王はその顔を上げさせる。そして、にこりと微笑むと荘司に口づけた。


「お前に永遠の愛を誓おう。二人で、幸せになろう。」


荘司は微笑んで頷き、アレク王の首に腕を回した。



end
→あとがき

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