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2

この世界についてから教えられたことなのだが、この世界では数百年に一度神子と呼ばれる者が現れるらしい。その神子はこの世界の王と結ばれればそののち次の神子が現れるまで、この世界は神の祝福を受け豊穣な実りを得るらしい。

街の占い師が近々その神子が現れる、それは異世界からの者で黒き悪魔を引き連れた金に輝く少年であると予言したらしいのだ。そこに現れた荘司と幸。ビショップは予言が当たったと、幸を神子として崇め町に連れて行き皆で神子の再来を喜んだ。

そして、善は急げとこの世界の王のもとに連れて行くことになったのだが、その旅のお供に選ばれたのがビショップとあと二人。
この三人は完全に幸の虜となっていた。王に差し出さねばならぬ愛しい人へのどうにもならない苛立ちを荘司にぶつけ発散している。荘司はそんな三人のことを心からばからしい、と思っていた。


幾日かの旅がようやく終わり、城に着くころには荘司は怪我だらけでボロボロだった。王が謁見するというので皆で玉座の前で王の現れるのをじっと待つ。一人の兵士が、荘司を見て『貴様のような下人は謁見はならぬ』と荘司をその場から引きずり出そうとしたその時である。


「待て」


謁見の間に、凛とした声が響き渡る。と同時に、玉座に現れた一人の男。その場にいる全ての者が息をするのを忘れた。

美しい、なんてものじゃない。なんと表現してよいのかわからないほど、その男はとても整った容姿をしており、なによりその圧倒的な存在感。ただそこにいる、それだけなのにすべてに人間が跪きたくなってしまうような、不思議な魅力にあふれた男が目の前に現れたのだ。あの、物事に無関心な荘司でさえ一瞬目を奪われた。男は現れてからずっと、荘司を見つめている。食われそうだ。よくわからない恐怖に駆られ、荘司はさっと目を伏せた。

「遠いところまでよくぞ参った。私はこの世界の王、アレクだ。」
「お、俺、幸っていうんだ!よろしくな!」

頬を真っ赤に染めて叫ぶ幸に、荘司はああまたか、と思った。この男はとにかく美形が大好きなのだ。そしてその美形たちをはべらせ、自分がちやほやとされるをこの上なく好む。そして取り巻きの美形たちに俺を蔑ませ、優越感に浸るのがとても好きなのだ。恐らく、この王の事も一目で気に入ったのだろう。キラキラと輝くその目には、嫌らしい欲望が見え隠れする。だが誰もそれに気付かない。なんて無邪気で愛らしいんだ、と幸の思うままに蜘蛛の巣にかかった蝶のように捕われるのだ。

「アレク王、こちらが神子であるコウ様です。」
「ほう、そなたが…」

優しげに微笑みを向けられ、幸がますます顔を赤くする。

「で、そちらは?」

突然、王が兵士に掴まれた俺を指さした。

「あっ、こ、こいつは荘司っていうんだ!俺の親友なんだ!」
「ショージか」

幸から名前を聞き、なんとアレク王が玉座から立ち上がり俺の目の前までやってくる。そして、俺の顎を掴んで無理やり自分の方へ向けさせた。

「…汚らしい男だ。いつもこんなに汚れているのか」

ふん、と鼻で笑われ思わずかっと赤くなる。

「や、やめろよ!荘司は鈍くさいからよく怪我するだけなんだ!」

そんな俺たちの様子を見て幸が嬉しそうに言う。王は俺の顎を掴んで、じっと見つめたまま離さない。

「離せよ。触るならあっちにしろ、あんたたちの大事な神子様にな」

首を振って顎から手を離させると幸が今度は俺に食いついてきた。

「やめろよ、荘司!自分が神子じゃないからって、やきもち妬いてそんな言い方しちゃだめなんだぞ?王に謝れよ!」

なんで俺が謝らにゃならんのだ。別にやきもち妬いてないし、神子になんてなりたくもない。

「勝手にやってろよ。お前がこの人とくっつきゃそれで万々歳、ハッピーエンドなんだろ?どうでもいいからとっととくっついてくんないかな」

そんで俺を解放してくれ。

「貴様!」
「王の前で何ということを!」

ビショップやその連れが怒りをあらわに立ち上がろうとしたその時、王が手をそいつらの前にしてそれを制した。

「とにかく長旅で疲れただろう。今日はゆっくり体を休め、また明日詳しく話を聞きたい」

王が手を叩くと、ぞろぞろと従者たちが現れて幸たちを連れて行った。

「あ、荘司!お前も来いよ!」

俺がついてきていないことに気付いた幸が振り返って俺の元に駆けてこようとするのを王が止める。

「この者は取り調べが必要なのでこちらで身柄を預からせていただく。」
「そ、そうなのか?しょうがないな、荘司は汚いしな!じゃあな、荘司。王様に失礼なこと言うなよ!」

幸はにやにやと嬉しそうに笑いながらビショップたちと共に謁見の間から出て行った。
きっと、俺がこの王様にひどい目に合わされるのを想像して楽しんでいるんだろう。町でも、散々な目になった。旅の途中でもあいつらに好き勝手にやられてた。今度は奴隷か、それとも今度こそ死刑かな。

それもいい。あの本がなくなってしまった今、帰り方なんてわからないし帰ったところで自分を待つ誰かがいるわけでもない。


「来い」


兵士に手を離させ、王が荘司の腕を掴んで無理やり引きずって歩きだした。



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