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3

それから一週間ほどたったある日の事。聖が風邪をひいて熱を出した。結構ひどく拗らせてしまい、高熱のため聖は仕方なしに会社を休むことにした。恵人がつきっきりで看病していたら、インターホンが鳴らされた。

「こんばんは、秘書の丸川です」

一緒に暮らしていることは会社の皆が知っている。聖の所に、あくまでも居候として住ませてもらっていることにしているのだ。恵人は少し迷ったが、急ぎの仕事の事ではいけないと玄関を開けた。

「社長が風邪だとおうかがいして、急いで飛んできたんです。」

そう言って、許可もしないのに勝手にずかずかと上り込む。手には買い出しに行ってきたのかスーパーの袋を持っていた。そして、荷物を置いて聖のいる寝室へと向かおうとする。恵人は慌てて丸川を止めた。

「だ、だめです。い、今、熱が高くて…」
「あら、だからこそじゃない。私、看病に来たんですもの。」

丸川の言葉に恵人は一瞬口をつぐんでしまった。妻の自分がやります、とは言えなかったのだ。

「恵人さん、居候してるんですよね?学校あるんでしょう?移っちゃいけないから自分の部屋に行ってれば?大丈夫、社長の事は私に任せて。」

にこりと微笑んで、恵人を気遣うような口ぶりだがどこか棘を含んでいた。恵人は何も言えなくなって俯く。そんな恵人を無視して、丸川は寝室を勝手に開けて中に入ってしまった。
そして、聖が横になっているベッドに向かい、そのそばに顔を寄せる。

やめて…、近づかないで。ここは、僕と聖さんの、ベッドルームなのに…!

恵人はひどく泣きそうになりながらもそのセリフを言うことができない。自分たちの関係はあくまで秘密なのだ。
ふと、目をつぶっていた聖が丸川に気付き苦しそうに起き上がった。

「ごほっ、ごほっ…!き、みは、一体…!げほっ!誰の、許可を得て…!げほ…!」
「社長、寝ていなくてはいけませんわ。許可なら恵人さんからいただきました。よくなるまで私が看病いたしますね。」
「何…、ごほっ…」

咳がひどく聖が思うように言葉を伝えられないのをいいことに丸川はまるで自分が恋人であるかのように聖を看病しだした。

「あら、まだいたの?恵人さん。向こうに行っててくださいって言ったわよね。」
「…!き、さま…!げほ…!」
「あぁ、聖さんったらいけないわ!ほら、横になって。私がついてますから!」

恵人はいたたまれずに、俯いて寝室を出た。リビングのソファで、クッションを抱きしめて顔を埋める。
いやだ。いやだ。そこは、僕の場所なのに。
でも、ただの従兄弟としてしか紹介をされていない自分が丸川に文句を言うことなどできないのだ。

しばらくして、丸川が寝室から出てきてキッチンへ向かった。恵人は思わずソファから立ち上がり、丸川の後を追う。

「あ、恵人さん。ちょうどよかったわ。私、彼のために雑炊を作ろうと思うの。お鍋、どこかしら?」
「あ、あの…」

僕がやります。
そう言おうとしてまた下を向く。丸川はそんな恵人をよそに、鼻歌を歌いながら買ってきた食材を袋から出している。

「あら、やだ。なにこれ?」

丸川が食器棚の引き出しから、何かを見つけて引っ張り出した。

「やだあ、かわいいエプロン。ふふ、誰かにつけて欲しくて用意してたのかしら?」

恵人は丸川の広げたエプロンを見て体を硬直させた。それは…、そのエプロンは…。

「ちょうどいいわ。私つけちゃお」
「――――――ダメ!!」

エプロンを丸川がつけようとした時、恵人は大きな声を出してエプロンを丸川から取り上げた。

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