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笹山は目が覚めて手を伸ばしている自分に気がついた。ほんやりとした頭で今の状況を確認する。どうやら中庭のようだ。
「夢かぁ」
伸ばしていた腕を頭の上に上げ、思い切り伸びをする。
「いい夢みたなぁ。」
神崎に抱きしめてもらえるなんて。笹山は夢の中の神崎の腕の温もりを思い出してえへらとにやけた。
でも、夢の中で思い切り告白してしまった。
「はずかし…」
赤くなった頬をぱちんと叩いて、立ち上がり寮部屋へと帰った。
次の日、学校へ行くとある話題で持ちきりだった。その話題とは、神崎が辞職させられるというもの。クラスで噂を聞いた笹山は頭が真っ白になった。呆然と席に座っていると、クラスの神崎ファンたちが笹山を取り囲んだ。
「神崎先生が辞めさせられるの、あんたのせいなんだからね!」
「おれのせい?」
「そうだよ!不良一人更生できないなんて、教師として失格だって!」
口々に責められる内容に、笹山は頭を殴られた気分だった。
俺が。俺が、いつまでも言うこときかないから。俺の素行の悪いせいで、先生が。
笹山はたまらず教室を飛び出した。
どうしよう。俺のせいで。俺のくだらないわがままのせいで。
ごめんなさい、ごめんなさい。
やっぱり、玉砕しておけばよかった。欲なんて出さなければよかった。
触れてもらえなくたって、見てもらえなくたって。こんなことさえしなければ、先生は学校にずっといて。
見ることだけはできたのに…!
笹山は泣きながら走り、寮の部屋へと帰った。
その日の放課後、神崎は一人指導室で渋い顔をして椅子に腰掛けていた。笹山が、1日学校に出てこなかったのだ。
遅刻したり、一限だけサボったりと言うことは今まであったが、丸々1日サボったのは初めてだ。クラスの奴の話では、朝は登校していたらしい。一体、何があったんだ。神崎が笹山を案じていたその時、指導室のドアがノックされた。
「どうぞ」
がらりと扉を開けて現れた生徒を見て、神崎は一瞬誰だかわからなかった。
「え…?笹山…か?」
神崎の問いにこくりと頷く。
笹山だと名乗る生徒は、黒髪だった。
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