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「理不尽だ…まったくもって理不尽だ…」

拾った洗濯物を洗面所で仕分けしながら修吾はぶつぶつと文句を言った。恋人になれと宣言されてから半年。修吾は毎日袴田の家に来て掃除や洗濯をしていた。

「こんなんで恋人って言えるのかよ。これじゃ家政婦と変わりないじゃん…」

恋人になれなんて言っておいて、袴田は修吾に手を出したことはない。無理やり恋人にさせられたとはいえ、恋人って、何をするんだろうかと若干ドキドキしていた修吾は毎日掃除しながら一向に手を出そうとしない袴田に疑問を抱いていた。

「だあー!違う!これじゃ俺が手を出してほしいみたいじゃねえか!」

仕分けした洗濯物をぶんぶん振りながら修吾は洗面所で一人頭を抱えた。

本当は、嬉しかった。袴田の恋愛小説は、高校生の時から読んでいた。自分は袴田にあこがれてこの世界に入った。憧れの作家の担当になれた時の喜びはとても言葉で言い表せたものではない。
いつか、俺も袴田先生の恋愛小説のように。
…そして、その相手が袴田先生だったなら…。

初めてここに来た時に現れた先生を見て、一目で心を鷲掴みにされてしまった。

このワイルドで野性味あふれる男の人から、あんな繊細で優しく儚い物語が生み出されるなんて。

先生は、都合のいい恋人が欲しかっただけなんだろう。
それでも俺は、このままごとのような関係がいつまでも続けば。そして、いつか本物になれれば。そんな風に甘い夢を見てしまうのだ。


「なにしてんだ」


袴田の洗濯物を握りしめたままそんな事を考えていたらいつの間にか袴田が後ろに立っていた。
びっくりして振り返る。

「…なんだ、俺のシャツを抱きしめて。匂いでも嗅いでたか?」

にやりと笑われ、握りしめているのが袴田のシャツだと初めて気づき慌てて洗濯機に放り込む。

「そ、そうですよ!臭くないか確認してたんです!」

真っ赤になって洗面所から出ようとすると袴田に腕をとられ抱きしめられた。

「な、な…!?」
「ひでぇなあ、俺別に臭くないぜ?ほら、直接嗅いでみ」

抱きしめて後頭部に手をやり自分の胸元に修吾の顔を埋めさせる。
袴田から立ち上る男の香りに修吾はくらくらした。

「…っ、わかりましたからっ!柔軟剤はできるだけ匂いのないものを使います!」

両手でぐいと袴田を押し、早足で洗面所を後にする修吾を袴田はにやにやと笑いながら見ていた。

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