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3

慶一は実は皆から敬遠されているわけでもなんでもない。むしろ皆から逆に崇拝されているのだ。
慶一は一年生の時、翔也を初めて見かけた。その素朴で優しげな雰囲気、控えめだが笑うとかわいい。慶一は一目で翔也の虜となった。なんとかお友達になりたい。仲良くしたい。あわよくば、食っちまいたい。
草食獣な見た目とは裏腹に慶一は実は肉食獣だった。

同じクラスになった時、チャンスだと思った。クラスの皆に
『僕は今日からいじめられっこだから。翔也の前でお前らも演技しろよ』
女王様からの命令で、クラスの皆はわざと慶一を無視していた。だが慶一は本当に嫌われているわけではなく、翔也のいないところでこうやって、たまに作戦会議をしていたのだ。
知らぬは翔也ばかりなり。慶一と二人になると浴びせられるあの視線は、実は嫌悪ではなく
『翔也大丈夫かな?』
『作戦通りいってるかな?』
の視線なのだった。


「で、でもさあ、これって、児玉を騙してることにならないか?」
「う、うん。高槻、やっぱりこんな真似しないできちんと話した方が…」
「いじめられてる演技なんてしなくても、あいつならちゃんと話せばわかってくれると思うよ」


「演技ってなに?」


いつの間に帰ってきたのか、教室の入り口に表情をなくした翔也が立っていた。クラスの皆はばつが悪そうにお互い顔を見合わせたり、挙動不審になっている。そして、張本人である慶一は顔を青くしていた。翔也が教室の中に入り、慶一の目の前に来る。

「慶一、演技してたのか?わざといじめられてるふりをしてたってこと?」

翔也の問いかけに、慶一は下を向き唇を噛みしめた。

「…ごめん」

慶一の謝罪を聞いて翔也はずきりと胸が痛んだ。その目に、じわりと涙が浮かぶ。

「…なんで、そんな…。俺、お前が皆と仲良くなれるようにって、そう思って…なんで?俺が今までしたことって、無駄だったの?俺をからかってたの?演技に騙されてる俺を見て楽しんでたのかよっ!」
「翔也っ!」

叫ぶと同時に、翔也が教室を飛び出す。慶一は翔也の後を必死に追った。


「待って、翔也!」
「離せ!」

走って走って、校舎裏の体育倉庫まで来たとき、翔也は慶一に捕まった。必死にその腕を振りほどこうともがく。慶一はそんな翔也の手を引き、体育倉庫に連れ込んで、扉が開かないように塞いだ。

「翔也」

名を呼ばれ、びくりとする。翔也はその目から涙をこぼし、唇を噛みずっと俯いたままだ。

「…嘘ついて、ごめん。ほんとは僕、無視なんてされてない。僕が、皆にわざとそう見せかけるように頼んだんだ。」
「な、んで、そんなこと…!お、俺を騙して、笑いものにしようって…」
「違う!」

翔也の言葉を遮り、慶一が叫ぶ。そのあまりに必死な声に、思わず顔を上げた。慶一は、とても辛そうに眉を寄せていた。

「だって、そうしないと翔也は僕と仲良くなってくれないと思ったんだ!」

慶一の言葉に、翔也は目を見開いた。

「翔也と初めて会ったとき、僕は翔也と話をしたくて仕方なかった。でも、僕は一年の時からいつも周りに人がいて囲まれてて。翔也、一年の時何回か僕と廊下ですれ違ってるんだよ。翔也は僕の前を通ったら、必ずと言っていいほど関わりたくないとでも言うように廊下の隅によって目をそらして通り過ぎるんだ。」


慶一に言われ、ふと思い出す。確かに、廊下で見かけるたび慶一はいつも人に囲まれてて。大勢が苦手な俺は、ちょっと避けて通っていた。

「そんな翔也が、僕が話しかけても嫌がるかもしれないって。そう思ったら話しかけることなんかできなくて。それなら、僕が一人ぼっちなら、仲良くなれるかもって…。
こんな方法しか思いつかなかったんだよ。どうしても、僕は翔也と仲良くなりたかった。だって、僕は翔也が好きだから…!」

慶一の目から、ぽろぽろと涙が落ちる。
慶一が、俺を、好き…?

「う、うそ…」
「嘘なんか言わない。こんなことで嘘なんてつかないよ。好き、翔也が好きなんだ。う、うそついてだましてて、ごめんなさい。ど、どうしたら信じてくれる?許してくれる…?」

涙をこぼしながら、必死に好きだと訴える。慶一が、俺の事を。確かに、一年の時のように人だかりをつれたまま話しかけられたとしたら、俺はこんなに慶一と仲良くなっていなかったかもしれない。それどころか、自分が避けていたかもしれないのだ。慶一なりに必死に考えてくれたんだろう。翔也はそんな慶一の姿に、胸がぎゅっとなった。そっと近づき、恐る恐る抱きしめる。


「…ごめん。俺、ひどい事言って…。俺、俺も。…俺も、慶一が、好きだ…」

一緒にいる間に、優しい慶一に惹かれていた。翔也は素直に自分の気持ちを慶一に打ち明けた。慶一が目を見開き、翔也を見つめる。

「ほ、んと…?ほんとに?」
「うん。好き、だよ。慶一が、好きだ。」


頬を染めながら微笑んでそう言う翔也に、慶一は思い切り抱きついた。

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