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9

その翌日。校内にはまた新たな噂が飛び交い、その話題で持ち切りだった。

「ね、二宮先生の話聞いた?」
「うん、聞いた聞いた!花園先輩じゃなかったんだってね。告白されたってのも、先輩の嘘だったらしいよ。」
「でも本命はいるんだってね!やっと捕まえたってすごく幸せそうに笑ってたもん。」
「どんな人ですかって聞いたら、菫のように健気で可憐で一途な人で、おまけにめちゃくちゃかわいいんだって。」

そこらじゅうから聞こえてくる噂話を背に、大野は廊下を歩いていた。美術室の扉を開け、道具を用意し静かにキャンパスに向かう。


「慎吾」


筆を滑らそうとしたその時、ふいに後ろからふわりと抱きしめられ顔をそちらに向けられた。そして、そのままキスをされる。

「…二宮先生、やめてください。誰かに見られたらどうするんですか」

大野は顔を真っ赤にしながら、じろりと上目づかいで二宮を睨んだ。二宮は離すどころか、にこにこと笑いますます腕の拘束を強くする。

「慎吾、そんな目で睨んでもかわいいだけだぜ?」
「…人の話を聞いてください…」
「うん、その拗ねた顔も可愛い」

何を言っても可愛いと返す二宮に大野はもう何も言えなかった。真っ赤な顔で俯き、震えている。二宮はそんな大野の顔中にキスを降らせる。


昨日お互いの気持ちを伝えあってから、二宮は今までの時間を取り戻すかのごとく大野に甘い言葉とキスを繰り返した。そして学校に着くなり、言い寄る生徒たちに
『本命をやっと捕まえたのでこれからは告白も受け付けないしキスなんてとんでもない』
と公言したのだ。
花園先輩にも、きっぱりと断ったらしい。

「ど、どうしてあんな話をみんなにしたんですか。」

大野は今日一日そこら中から聞こえてくる二宮の本命のうわさを耳にするたび、赤くなる顔を何とかしようと必死だった。
二宮は学校中の皆に、自分の恋人はかわいくてしょうがないと言いふらしているのだから。
地味な自分を自覚している大野はそれを聞くたびいたたまれなかった。

「ほんとのことだよ。お前はかわいい。」

そう言ってまたキスをする。大野は真っ赤になって下を向き、ポケットのそっと手を忍ばせる。そして飴を一つ取り出し、袋を開け口に入れた。

「先生」
「ん?…っ!」

おもむろに振り向き、二宮に声を掛け自分からキスをする。そして同時に、口に含んだ飴を二宮の口に移してやった。

「…一生懸命僕を探してくれた先生に、ご褒美です」

二宮は一瞬の出来事に目を見開いて固まる。口の中に広がる甘い味。それが自分があの日翼にあげた飴だとわかると、目を細めて嬉しそうに微笑んだ。口の中の飴を噛んで二つに割る。そして真っ赤になって下を向く大野の顔をこちらに向け、口づけてその片割れを大野の口に戻してやった。

「俺を思って一生懸命描いてくれたお前にご褒美だ。」

とんとん、と指でキャンパスの上を軽くたたく。そこには、穏やかでどこか力強い海と、砂浜の隅に一輪の菫が描かれていた。


end
→あとがき

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