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「愛してる」
その言葉を聞いた瞬間、大野は体を震わせた。
「う…っ!」
ぼろぼろと涙がこぼれ、声を発することができない。そんな大野を、二宮はあの日のように優しく抱きしめて背中を撫でる。
「ご、めんなさい。ごめんなさい。騙してて、勝手に消えてごめんなさい。僕、僕は…」
「騙す?誰を?」
「…だ、て…、僕、変装して…。ほ、ほんとは、こんな冴えない地味な、ただの高校生で…」
しゃくりあげながらごめんなさいと繰り返す大野に、二宮は優しくキスをする。
「お前は騙してなんかないよ。確かに見た目はあの時と全然違うけど、それを騙してたなんて思わない。地味で冴えないなんて、とんでもない。翼のままだ。お前は、バーであった時と何も変わらない。俺が、見た目でお前に惹かれたとでも思ってるのか?見た目を言うなら、今のお前もめちゃくちゃかわいい。」
微笑みながら自分をしっかりと見つめそう言う二宮に、大野は驚いて目を丸くする。か、かわいい?この僕が?
真っ赤になって涙が止まってしまった。
「…な、慎吾。もう消えないでくれる?お前がいなくなってから俺の世界はずっと色がない。お前を探していろんな奴に声を掛けたけど、誰一人として俺に色を付けてくれる人間はいなかったんだ。お前だけだったんだよ。翼としてじゃないお前に触れた時、ほんの少し俺の世界が色づいた。お前が俺に色を戻してくれたんだ。」
ちゅっ、ちゅっ、とついばむようなキスを繰り返す。大野はそれを受けながらまたぽろぽろと涙をこぼし、恐る恐る二宮を見上げる。
「…いい、の?僕、なんかで、いいの?だって、だって…」
恐らく、二宮の前から何も言わずに消えてしまったことや変装して偽名を使っていたという罪悪感がなかなか拭えないのだろう。大野は泣きながらどうしていいかわからないというように言葉を濁す。
「いいんだ。俺はお前に気付かずきっとお前を傷つけた。それでも、俺はお前を愛してると言った。お前はどうなんだ?そんな俺はいやか?お前もあの時から、俺を好きでいてくれているとうぬぼれてたんだが、違ったか?」
眉を下げ、自分を覗き込む二宮に大野は激しく首を振った。
「す、きです。先生が、好きです…!ほんとは、あの時からずっとずっと好きだった!でも、でも言えなくて…!ごめんなさい。ごめんなさい…!」
大野は泣きながら二宮にしがみつき、二宮はとても嬉しそうに大野を抱きしめた。
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