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6

大野が美術室を飛び出した後、二宮は大野の落とした筆を拾い、じっと見つめていた。

「もう、こんなのつけられて最低!何なの、あの平凡!」

花園は制服を拭きながら、ぶつぶつと文句を言っている。筆を見つめていた二宮は、ふと大野が向かっていたキャンパスに目をやった。

「…なあ、花園。お前、絵は描くか?」

キャンパスを見つめながら問う二宮に、不思議そうに花園が首を傾げる。

「え?絵なんて描くわけないじゃない。」
「…お前じゃない。」
「え?…先生!」


花園の答えに、二宮は一言そう言うと美術室から飛び出した。


大野は、校舎裏にうずくまり泣いていた。
花園先輩の言うとおりだ。僕は先輩にやきもちを妬いた。悔しくて、胸が苦しくて。後悔ばかりが胸を刺す。
どうして僕はあの時、逃げ出したんだろう。僕も、先輩のように名乗り出ることができていたなら。ポケットから、二宮からもらった飴をそっと取り出す。あの日にもらった飴と、この前もらった飴。お守り代わりに毎日箱から出してポケットに入れていた。

「変装なんて…、しなきゃよかった…」

「やっぱり変装だったのか」


ふいに後ろから聞こえた声に、驚いて振り返る。そこには、息を乱し汗だくになった二宮がいた。

「あ…!」

立ち上がり逃げようとするその手を二宮に掴まれる。そして、そのままその腕の中に閉じ込められてしまった。
なんで。どうして。自分がなぜ抱きしめられているのかわからず、大野はもがいて離れようとする。

「は、はなして…!」
「誰が離すか!やっと見つけたんだ!―――――翼!」


思いもよらない名前を叫ばれ、大野は動きを止めた。


翼。


それは、バーであった時に大野が使った偽名だった。
大人しくなった大野の頬を撫で、二宮がじっと見つめる。大野は自分を見つめる二宮を自分も黙って見つめ返した。


「こんな近くにいたなんて…探してたんだ。翼。やっと、やっと見つけた…!」


優しく微笑みながら自分を抱きしめ、頬を震える手で撫でる二宮に、大野はくしゃりと顔を歪また。

「…花園先輩なんでしょ?先生の探してた人は。僕、翼なんて名前じゃありません。人違いです。」
「いいや、人違いなんかじゃない。俺の探していたのはお前だ。翼。いや、本当の名前は慎吾か。どれだけお前を探したか…」

愛おしそうに自分を見つめる二宮に、大野は胸が締め付けられた。やめて。そんな目で見ないで。顔をそむけ、目を伏せる。

「…だから、違います…。」
「もうごまかしはきかないぞ。…あのキャンパスに描かれていた絵。あれは俺だろう?」

大野は思わず二宮の顔を見上げた。そうだ。あの、二宮への恋心を自覚したあの最後の日。大野は二宮に、今の自分の抱える悩みを相談した。その時に、ぽろりと口に出したのだ。
『あなたは海のような人ですね』
あの時支えてくれた二宮は、大野にとって大きな海のようだった。それから大野は、憑りつかれた様に海の絵をひたすらに描き続けていた。もう、二度と会うことは叶わないのだから。それならば、思いのたけをキャンパスにぶつけよう。

「…ど、して…」

あの絵なら、毎日見ていたはずだ。美術部顧問として放課後一緒に過ごしていたのだ、その時は何も言わなかった。なのに、どうして今。

じわりと涙を浮かべ、顔を歪ませる。そんな大野の頬に、二宮が軽く口づけた。

「…ほんとは、ずっとあの絵を見ながら思ってたんだ。確かに、海の絵はいくつもある。でも、何て言うかな。お前のあの絵は、ひどく感情がこもってるなって。まるで言葉にできない思いを代わりに絵に伝えてもらいたいとでも思っているような。俺はこれでも美術教師なんだぜ?」

優しく微笑む二宮に、大野は言葉を詰まらせる。

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