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3

二宮が赴任してくる半年ほど前。大野は自分の絵に行き詰まり、ひどく落ち込んでいた時期があった。そんな大野を、気分転換だと言って大学生の兄が大野を夜の世界に遊びに連れ出すことにした。

とはいえ、自分とは違い高校生の弟をそのまま連れ出しては補導されて困ったことになる。そこで、兄は大野を変装させることにした。眼鏡を外し、茶髪のウィッグをかぶせ、メイクをさせてカラコンを付けさせた。
兄の手によって別人のようになった大野は、嫌々ながらも兄に連れられ兄の行きつけのバーへ行く。
そこに、二宮がいた。

二宮は兄の友人の連れだったらしく、その日は4人で飲むことにした。

「ね、君かわいいね。大学生?」

か、かわいいって…。大野は真っ赤になってこくんと頷いた。名前を聞かれ、偽名を使う。
そんな大野に、二宮はにこりと優しく微笑み、その日ずっと大野のそばから離れず話をしていた。たわいもない話だったが、大野はそれをとても楽しく思った。帰る時間になり、二宮は大野の手を握りまた明日、と言った。次の日、兄に連れられバーに行くと約束した通り二宮はそこにいた。自分を見つけ、笑顔で手を上げ隣へと促す。


その日から、大野は兄に連れられよくそのバーに行くようになった。もちろん、変装をしてから。大野が行くと二宮は必ずそこにいた。そして、自分を隣に座らせ、二人でたわいのない会話をする。大野はその時間がとても楽しみだった。
そんなある日、大野はぽつりと自分が絵を描いていること、そして行き詰まって苦しんでいることを二宮に話した。毎日バーで話をしているうち、二宮が美術を教えていると聞いて思わず口にしてしまったのだ。

「頑張りすぎちまったんだな。今はきっと何をやっても納得できねえさ。そういう時はな、描いて描いて描きまくるか、もしくは一旦全てを投げちまうかしかねえんだ。」

そして、大野の手を握り、その掌に飴をころんと一つ落とした。

「一生懸命なお前に、ご褒美だ。」

大野はそう言って微笑みながら自分の頭を撫でる二宮の前で、ぼろぼろと泣いてしまった。二宮は、泣き止むまで大野をそっと抱きしめてずっと背中を撫でていてくれた。

その日の帰り、二宮は大野を店の前で引き止めた。

そして、大野に一枚の紙切れを渡す。大野は紙を見た後、二宮を見る。
二宮は、頬を少し赤くしてはにかんでいた。

「…これ、俺の番号。よかったら、連絡して。」

それだけ言うと、二宮は赤い顔を隠すように店の中に戻っていった。


大野は、その時に初めて自分が二宮に強く惹かれていることに気が付いた。
だが、それは同時に失恋を意味する。今の自分は偽りの姿。本当の自分は地味で何の変哲もないただの平凡な男子高校生なのだ。

大野はその日以来、バーに行くことをやめた。静かに泣きながら、二宮からもらった飴と、携帯番号の紙を大事に大事に箱にしまった。

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