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2

レンは、ユーリの愛を一身に受け幸せの真っただ中にいた。…あの日が、来るまでは。


「隣国王子が平和交渉のためお見えです」

その頃、国同士友好を深めるためにお互いの国を一か月ほど滞在するのが普通であった。だが、今回来た隣国の王子。彼はこの年、初めてこの国に来たのだが、王子を見た全ての者が虜になるほど見目麗しい王子だった。

「初めまして、ユーリ王子。ナオと申します。」
「よく来てくれた。ゆっくり我が国を堪能してください」

ユーリとナオは、お互いとてもにこやかに挨拶を交わす。レンはユーリに命じられ、ナオと謁見することは許されなかったのでその様子を柱の陰から見つめていた。二人並ぶその姿に、レンは胸に嫌な予感を覚えた。

「ああ、レン。今日はナオと出かける。大人しく待っていろ」

ナオが滞在するようになって数日。ユーリはいつもナオと二人で出かけるようになった。それだけではない。食事も、ナオと共に取るようになり、晩は遅くまでナオの部屋に二人きりでいてレンが起きている時間に帰ることはなかった。


「ユーリ様とナオ様、本当にお似合いよね」
「どちらもとても美しい方だもの。ナオ様も、ユーリ様をお気に召しているようだし。」
「お二人、婚姻を結ばれるのかしら?」


王宮内では、まことしやかに二人の結婚のうわさが流れ、レンは一人ユーリの部屋で帰らないユーリを痛む胸を押さえながら待つしかできなかった。


そんなある日、のどの渇いたレンはユーリの言いつけを破りユーリの部屋から外へ出た。キッチンで飲み物を探していると、後ろに人の気配がした。
振り返った先にいたのは、冷笑を浮かべたナオだった。

「…初めまして。あなたが、レン?」

嫌な笑いを浮かべたまま挨拶をしてくるナオに、レンは軽く頭を下げる。ナオはじろじろとレンを眺め、ふん、と鼻で笑った。

「ユーリ王子の、愛妾でしょ?単刀直入に言うけどさ、出て行ってくれないかな。ユーリ王子は僕と結婚するんだ。ほら。」

そう言って差し出してきたナオの左手の指には、ユーリがいつもしていた王家の指輪があった。


「僕、やきもちやきだからさ。妾とかって許せないんだよね。ユーリがね、そう言ったら君の事は捨てるからって。だから、僕に結婚してくれって。どうしても僕じゃないとダメなんだってさ。」


…ユーリが、僕を、捨てる…。


…ああ、だから最近少しも僕の元へ戻ってきてはくれなかったんだ。本当に伴侶にしたい人を見つけたから。僕は、しょせん遊びだった。


「…わかりました。どうか、どうかお幸せに…」


レンは震える体を押さえながら、ナオに一礼してキッチンを出た。そして、そのまま王宮を後にする。


ユーリ王子。あなたにほんの一時でも愛されて、僕は幸せでした。あなたに正面から、いらないと言われることは僕には耐えられない。だから、僕はあなたに言われる前にあなたの前から姿を消します。もう二度と、あなたに会わないように。あなたに会うことが、できないように。このあなたへの愛と未練で張り裂けそうな僕の心一つだけ連れて、僕は旅立ちます。
…どうか。どうか、幸せに。


身一つで王宮を後にしたレンは、その後すぐに病に倒れ、この世を去った。最後に、ユーリの名を一度だけつぶやきながら。


それが、廉の最後の記憶。

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