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3

次の日、生徒会室へ現れた草壁ちゃんは、至って普通だった。…会長と、副会長に対しては。俺には、普通に接しているように見えるが実は全く違う。目を合わせても、そこに感情はない。交わす言葉も、その態度も。全てが、俺を拒絶していた。

ショックだった。なにが。なにがいけなかったんだろう。草壁ちゃんから、毎日受けていたはずの愛情が今は一欠けらすら感じない。ひどく機械的な、あくまで社交的な態度しかしてくれない。メールも、電話も出てくれない。あんなに一緒にいたのに、今は必要最低限以外側によることはない。一週間、二週間。こちらがどれだけ近づこうとも、草壁ちゃんがそれを受け入れてくれることはなかった。


…俺、振られたんだ…。


やっと認識した事実に、愕然とした。


放課後、中庭で一人ぼけっとしていたら、いつの間にか辺りは真っ暗になっていた。…帰らないと。ふらりと立ち上がり、歩こうとした時にふと温室の方からすすり泣くような声が聞こえた。温室に、誰かいるのかな。役員以外は入れないはずなんだけど。不審に思い、温室に近づく。そっと扉を押すと、鍵が掛っていなかった。音をたてないように、扉を開けて中に入る。やはり、泣き声は中から聞こえるようだった。
息を殺し、泣き声に近づく。


「う、う…っ、ひ、く…。せん、ぱ…。うえ、むら、せんぱ…」


泣いているのは、草壁ちゃんだった。


「上村、先輩…!好きです…、せんぱい…!」


とても辛そうに、苦しそうに泣きながら、何度も何度も自分の名を呼び好きだと繰り返す。どうして。なんで。俺、振られたんじゃなかったの…?ふらりと、思わず一歩踏み出し、地面に落ちていた枝を踏んでしまった。
ぱきり、という音に、泣いていた草壁ちゃんが驚いてこちらを向いた。

「…!上村先輩…!?」

これ以上ないってくらい大きな目をさらに大きくして、草壁ちゃんが俺を見つめた。


それから俺は、渋る草壁ちゃんからなぜ泣いていたのか、これまでの態度は何だったのかを無理やり聞き出した。その内容はあまりにも衝撃的だった。

結論から言うと、草壁ちゃんは俺を嫌いになったのではなかった。


「僕、嗜虐思考があるんです…」


草壁ちゃんが言うには、好きな人ほどいじめたくなるのだと。いじめといっても、よくあるいじめなんかではない。セックスで言うところの、いわゆる鬼畜。つまり、Sなんだと。

「好きだと思うと、その人をめちゃくちゃに泣かせてしまいたくなるんです。鞭とか、ろうそくとかはしたくないですよ。そんな、好きな人に痛い思い何てさせたくない。でも、縛って無理やり何度もイかせたり、バイブ責めにしたり、それこそ快楽に狂わせてしまいたくなるんです。今までは、そういう趣味の人としかお付き合いしたことなかったしそういう趣味じゃない子だって、無理やり調教してきたんです。嫌がる子を淫乱に調教するのも、醍醐味だなんて思ったりして。
…でも、上村先輩は。上村先輩だけは…」


あなただけは、違った。初めて挨拶をしてくれた時、生まれて初めて胸がきゅっとするって感覚を知った。あなたは温かい陽だまりのような人で。そんなあなたを、僕の趣味で傷つけたくはなかった。あなたが、僕を抱きたいと思っているのを知っていたから。僕、ネコはやったことないけど、あなたが望むなら抱かれてもいいって思ったんです。でも、今まではそんなことなかったのに、初めてそういう雰囲気になった時。あなたに抱かれるつもりだったのに、僕は気が付けばあなたを襲おうとしていた。理性が効かなかったんです。

「…お願いです。別れてください…」

草壁ちゃんは膝の上でぎゅっと拳を握りしめ、絞り出すような声でそう言った。

「…!」
「だめです。僕は、あなたといると理性が効かなくなる。きっとあなたを無理やり凌辱してしまう。それだけは、したくない。あなたを傷つけたくない。」
「傷つくなんて、ない!」

俺は草壁ちゃんの肩を掴み、真正面からはっきりとそう言った。

「ご、めん。ごめんね、草壁ちゃん。俺、勝手に草壁ちゃんは俺に抱かれて当たり前みたいに思ってた。俺、俺も初めてだけど。ほ、ほんとはどっちも経験なんてないんだけど。どっちだっていいんだ!草壁ちゃんといられるなら、草壁ちゃんになら傷つけられたって構わないんだ!だから、だから…!」

草壁ちゃんは、震える手で俺の頬をそっと撫で、顔をゆっくりと近づけてきた。俺は黙って目を閉じる。だけど、いつまでたってもその時はやってこない。

「…だ、め。だめです…!ごめんなさい…!」
「…っ草壁ちゃん!!」

草壁ちゃんは、俺の制止を聞かずに温室から駆け出して行った。



俺が大事で、壊したくなくて自分を殺そうとしていた草壁ちゃん。ねえ、草壁ちゃん。俺だって、君の為なら何だってできるんだ。


コン、コン


ノックした扉を開けた人物が、怪訝な顔で俺を見る。


「…会長、お願いがあんだけど。」

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