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なんとか寮の自室に帰り、広大は布団の中にもぐりこむ。
裕輔の声を聞いたのは初めてだ。今まで、自分がどれだけ引っ付いてもそばにいても、にこにこと笑うだけで言葉を交わしたことはなかった。
裕輔はあの時、『別に』と言った。つまり、僕の事を何とも思ってないわけで。いや、むしろ話もしないということは逆に呆れられているのかもしれない。なんせ自分は毎日毎日、かるがもの雛のように祐輔に引っ付いて回っていたのだから。
「う、ふぇ…」
祐輔は、ほんとは困ってたんだ。話したくても、すぐ泣いちゃう僕になんて言えばいいのかわかんなかったんだ。
そこまで考えて、広大は一つ決意を固めた。
…何でも祐輔に頼るのは、もうやめよう。今までだってなんとか自分でできてたんだもの。後をついて回るのもやめよう。そして、そして、祐輔に頼らなくても大丈夫なんだと言うところをちゃんと見せることができたなら。
「ちゃんと、お隣に並んで仲良くお話するです!」
ごしごしと涙を拭き、よし!とガッツポーズをした。
その次の日から、広大は裕輔の後をついて回るのをやめた。広大が何かしようとする時に裕輔が近くに寄ろうとすると、手で制し、
「自分でできるです!」
と裕輔の助けを一切拒んだ。裕輔は広大がなぜそうするのかがわからず手助けをしようとするのだが、そうすると広大がうるうると泣きそうになるので、困ったように首を傾げながら広大をじっと見守ることしかできなかった。
今まで仲睦まじい二人を見て和んでいた生徒たちも、そんな様子をはらはらと困惑して見守る。
「けんかでもしたのか?」
クラスメイトの問いかけにも、広大の決心など知らぬ裕輔はわからないと肩をすくませるだけだった。
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