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7

佐山は自分に起きていることが全く理解できなかった。
幻聴だろうか。秋元が。自分を毛嫌いしている秋元が、自分を抱きしめて自分の事を好きだという。


「…嘘だ…」
「…っ、嘘じゃない!僕は、佐山が…」
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!」


佐山は秋元の腕の中で激しく首を振り暴れだした。そして秋元の腕をふりほどくと、耳を塞いでその場にしゃがみこむ。


「佐山っ!」
「嫌だ!嫌だ、嫌だ嫌だ!聞きたくない、そんな嘘聞きたくない…っ!」

首を振りガタガタと震えながら秋元の言葉を拒絶し、ボロボロと涙をこぼす。


「秋元がっ…、秋元が、俺に、そんなこと言うはずないんだ…!だって、俺、嫌われてるからっ…、う、う……っ。
俺なんか、好きになるはずないって…!」


秋元はしゃがみ込みなきじゃくる佐山を、その上から護るかのように抱きしめる。


「…ごめん。佐山。酷いことばっかり言ってごめん…!お願いだから聞いて。今更だって、信じられないってわかってるけど、話だけ聞いて…」


佐山は、自分を抱きしめる秋元の声がひどく優しいことに気付いた。怯えながらも、拒絶をやめてじっとする。


「…僕が初めて見たとき、お前はクラスの奴に購買に行くならついでに自分のも買ってきてほしいと頼まれてるときだった。お前は笑顔で承諾して出て行って。僕はそれを見て、お人好しな奴だなあくらいの認識だったんだ。
でも、帰ってきたお前がそいつに頼まれたものを渡したとき。たまたま、お前が買ったやつの方がよくなったんだろうな。そいつが、『それがあったならそっちがよかったのに』って言ったんだ。…そしたら、お前は困ったように笑って『ごめん』って謝ったんだ。」


秋元が話す言葉に耳を傾ける。…覚えてる。あの時はその子の役に立てなかったことが申し訳なくて、パンを交換したっけ。


「その後、自分のパンと交換した佐山を見て、なんてお人好しなんだろう。こいつバカなんじゃないかって思ったんだ。
…正直に言うと、その時佐山が嫌いだった。こいつ、偽善者じゃないかって思ったんだ。」


『嫌い』


…やっぱり、秋元は俺が嫌いだったんだ。改めて思い知らされ、佐山は胸に刃物を刺されたようだった。止まりかけていた涙がじわりと浮かぶ。


「…そ、な、前から、…っ、俺、嫌われてたんだ…」


はは、と乾いた笑いを放つ佐山の頭を秋元は優しく撫でた。


「…否定はしない。でも、最後まで聞いて。
僕、それからずっと佐山から目が離せなくなった。嫌いなはずのお前を、気が付くと目で追ってた。お前はいつも人に謝ってばっかだった。それを見る度、いらいらした。なんでこいつはいつもいつも人に謝ってばっかりなんだろうって。人の事を気にしてばっかりなんだろうって。お前を毎日毎日見つめてはいらいらしてた。」

聞いてほしいと言われたけれど、秋元の口から出る言葉は佐山の胸を容赦なく抉っていく。佐山は止まっていた涙をまたその目から溢れさせ、嗚咽をもらした。

「う…っ、く…、ど、して…!どうして、いまさら、そんなこと…!も、もう一度、俺が嫌いだって、ちゃんとわかるように言い聞かせるため…?ご、ごめ…、ごめんなさい。もうわかったから、言わないで…」
「だから、違うんだ…。お願い。佐山。」

泣きじゃくる佐山の頬に、優しくそっと秋元が口づけた。一瞬の出来事で、びっくりして佐山はぴたりと動きを止める。その様子を見て、秋元がふ、と微笑む。

「なんだ。これなら簡単にお前を静かにできるんだ。…今から続き話すから、また途中で謝ったりしたらキスするからな?」

優しく微笑まれ、ますます混乱するも真っ赤になってこくこくと頷く。


「初めてお前に声を掛けられた時も、わざとあんな言い方した。嫌いなお前を困らせてやりたくて。お前が悲しそうに離れて行ったあと、胸がむかむかしたけどそれもお前が嫌いだからと思ってた。それからもお前には優しくなんてできなかった。こいつはなんでこんなにも僕の心をいらだたせるんだろうって。
…でも、気付いた。それは嫌いだからじゃなくて、ただの僕のわがままだったんだ。そんな言い方したら、態度を取ってたらお前が怒るんじゃないかって。いつも皆に見せているような困った顔じゃなくて、僕にだけ違うお前の表情を見せてくれるんじゃないかって思ってたんだ。」

…俺の、違う顔…?

「僕、やり方間違えちゃったんだよな。でも引っ込みがつかなくなって。今さら謝って仲良くしたいなんて言い出せなかったんだ。だから、いつか、お前が怒ってくれたなら。その時は、今までの事も全部全部土下座してでも謝って、今度はひどいことばっか言ってた分、思い切り優しくしてやろうって思ってた。
でも、それからどれだけたってもお前はやっぱり謝ってばかりだった。どれだけ僕がひどい言葉を投げかけても、悲しそうに謝るだけで。卑怯な僕は、そんなお前を見るたびにどこかほっとしてた。ああ、こいつはこんな悲しそうな顔をするくらい僕の事を思ってくれてるんだって。無関心になられていないから、まだ大丈夫だって。…ひどいやつでごめん。お前が、僕のせいでどれだけ傷ついてるか知ってたくせに…」

秋元が、俺の頬に自分の頬をすり寄せる。それだけで、俺は胸がじんと熱くなってじわじわと涙が浮かんでくる。


嫌われて、なかったの…?仲良くしたいって、思ってくれてた…?

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