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3

そいつは眉を寄せ、おどおどとしている。

「あのさ、もう俺の側にくるのやめてくんないかな?申し訳ないんだけど、恋人が不安になるようなことは避けたいんだよね」
「でも、でも、僕…、ほんとに原口さんが好きで、ただ挨拶だけでもしたくて…」
「…違うでしょ?」

うるうると泣きそうなそいつは、びくりとして目を見開いた。


「…あんたが好きなのは、俺じゃないだろ?わかってんだよね。」


俺の言葉に唇を噛みしめていたが、やがて、はあーと大きく息を吐き出して今までのおどおどとした雰囲気ががらりと変わり、じろりと俺を威嚇して睨んできた。

「…いつから気付いてたの?」
「三回目に挨拶に来た時くらいかな。あんた、俺に挨拶して帰る前にちょっと笑ったんだよね。その顔でわかった。崇が俺に構いだしたときに、その周りの奴らがよくしてた顔だったから」
「へえー、あんた以外と洞察力あるんだね。ただの鳥好きの平凡だと思ってたのに」

そいつは髪をかきあげながらくすくすと笑っていた。でも、目が笑っていないのがわかる。
じろじろと俺を見て鼻で笑う。


「崇…伊集院だろ?あんたのほんとの狙いは」


そいつは噴き出したかと思うと、声を上げてけらけらと笑った。

「あはははっ!あー、びっくり。そこまでバレてたんなら仕方ないなあ。…そう、僕、伊集院様が好きなの。あの威風堂々たるお姿、傲慢な態度、気高い物言い、圧倒的なカリスマオーラ…。全てにおいて完璧な俺様。伊集院様は僕の理想の王子様なの。」

うっとりと空を見つめ言ったあと、ぎろりと俺に怒りのまなざしをぶつけてきた。

「…それなのに。あの伊集院様が、こんな平凡に手ごめにされるなんて!許せるわけがないでしょ!?あんなふにゃふにゃした笑顔、伊集院様には似合わない!伊集院様は、庶民を見下して笑うのが一番似合うんだから!あのさげすんだ目で見つめられながら抱かれるのは最高の至福だったのに!」

伊集院が俺と付き合う前に関係を持っていたやつだったんだな。つかさげすんだ目で見つめられながら抱かれたいって、えらい趣味だな。

「それで別れさせようと企んだわけね」
「そうだよ!伊集院様がやきもちやきだっていうのは学園の皆が知ってるから。お前にしつこく言い寄る奴が現れたら、伊集院様はきっとお前の浮気を疑って喧嘩して別れると思ったんだよ!バレちゃったなら仕方ないけど、お前、伊集院様にふさわしくないよ!とっとと別れてくんない?伊集院様は、俺様の方が素敵なんだから!」

そいつの言葉を聞いて、俺はため息を一つはいた。

「悪いけどさ、あいつ、自分の方が俺のこと好きな気持ちが強いとか思ってるけど実際ゾッコンなのは俺の方なんだよね。
俺、あいつがいなきゃ生きてけないの。あいつ以外どうでもいいの。万が一あんたの計画通り崇が浮気を疑って泣くくらいなら、俺は足を切り落として檻に閉じ込められてもいい。あいつ以外を見れないように目をつぶしたっていい。崇を抱きしめたいから手はおいとくけどね。
それくらい、あいつに惚れてんの。」


真剣に言う俺に、そいつは目を見開いて固まる。


「…伊集院が好きなら、そんなことして悲しませたり不安にさせたりするのは間違ってる。そんなことで傷ついて泣くあいつが見たいわけ?俺様でえらそうに見えるけど、ほんとは傷つきやすくて泣き虫で寂しがり屋なんだよね。
俺はあいつの泣き顔は見たくない。ずっと、笑っててほしいと思う。あんたには魅力的には見えない笑顔かもしれないけど、俺には最高に甘い極上のお菓子並みの笑顔だから。」


そう言うと、きゅっと唇を噛み締めて俯いた。俺はそいつに近寄り、頭にぽんと手を乗せる。


「あんただって、例えフリでも俺に言い寄ったりなんかしたら伊集院に逆に恨まれて二度と側に近づけなくなるんだぜ?
思惑通り別れたとしてもそれでいいの?違うだろ?なら堂々とぶつかれよ。あいつは以前とは違う。きっときちんと応対してくれるさ。」
「…なにさ、平凡のくせに…」

そいつはじわりと涙をにじませ、俺にぎゅっと抱き着いてきた。

「お、おい」
「なにさ、なにさ!伊集院様の方がかっこいいんだから!あんたなんかより、何倍も何十倍もかっこいいんだからあ!へ、平凡のくせに、そんなかっこいいこと、言って、み、認めたりしないんだからあ!」

そう言って抱き着きながらわんわんと泣き始めた。仕方ないので、背中をとんとんと叩いてやる。


「…忍…」


ふと声を掛けられ上を見ると、階段に涙を滝のように流す伊集院がいた。


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