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大貴は学園の生徒が注目する中、堂々と利紀を抱いて廊下を歩く。利紀は、今自分に起こっていることが理解できていなかった。
ちらり、と目線を上にする。凛々しい顔で、自分を抱き廊下を進む大貴。利紀はずっと大貴を見つめていた。
しばらく進むと、大貴が歩みを止めて扉を開けて中に入った。どうやら学園の寮らしい。ということは、野村君の部屋だ。利紀はそんなことをぼんやりと考えた。
中に入ると、抱いていた利紀をそっとソファへと降ろす。
野村君の、部屋…
利紀はきょときょとと辺りを見回した。大貴は利紀の隣に座り、そっと利紀の頬を撫でた。大貴の手の感触に、利紀がぴくんと小さく竦む。ちら、と目を上げると微笑む大貴と目があった。途端に真っ赤になり、持っている花束に顔を埋める。
「だめ」
だが、つい、と顎を掬われ、大貴と目を合わされる。
「…っ」
「目をそらさないで。お願い、俺を見て。」
恥ずかしくて、胸が苦しくて目を背けたいのに大貴がそれを許してくれない。利紀は恐る恐る、大貴を見つめ返す。
「あ…」
自分を見つめる熱いまなざしに、恥ずかしさだけではなく何かがじわりとこみあげてくる。胸が、熱い。顔も熱い。でも、そらしたくない。ずっと見ていたい。
「…利紀、好きだよ。頑張り屋な君に惚れました。陰から見つめられるより、俺はお互い見つめあいたい。だめ?」
大貴の言葉に、利紀はぶんぶんと首を振った。
「だ、めじゃないです…。ボクも、あなたが好きです。あなたと、見つめあいたい…」
利紀の言葉に、大貴はにこりと微笑んだ。
「お姫様、俺に奪われてくれる?」
「う、ん。ボク、野村君だけのお姫様になりたい…」
真っ赤になりながら頷く利紀に、大貴は触れるだけのキスをした。
「野村てめえええ!」
「よくも姫ちゃんを!」
その翌日、教室に行った二人を、利紀のファンが取り囲む。今にも飛びかからんとする勢いに、利紀があわあわと大貴の前に立った。
「や、やめて!野村くんをいじめないで!」
うるうると訴える利紀に、ファンの皆がぐっと詰まる。
大貴は、後ろからすっぽりと利紀を抱きしめた。
「利紀、大丈夫だよ。ありがとう」
にこりと微笑まれ、ぽっと頬を染める。
「ああ、俺らの姫ちゃんが…」
「なんで野村なんかに…」
「おい野村、まさかお前、姫ちゃんをもう頂いちゃったとか言わないだろうな!」
「そんなすぐに手を出したりするわけないでしょ。けだものじゃあるまいし。
…利紀は今また頑張ってるんだもんな?」
「う、うん!ボク、今度は野村君に裸を見せても恥ずかしくないように頑張ってるんだ!」
頑張る!と、張り切ってガッツポーズをする利紀に、ファンたちは灰になった。大貴はそんな利紀を見て、くすくすと笑い腕の力を強くする。
「…ガンバレ、お姫様」
利紀の耳元に甘く囁き、真っ赤な頬にキスをした。
教室で幸せそうに大貴と見つめあう利紀を見て、ファンの皆は涙をこぼしながら遠巻きに歯を食いしばり、お姫様の幸せを喜んだそうな。
end
→あとがき
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