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「一夜、大丈夫?」
「…うん、和也こそ…」

今、俺たち二人はベッドで並んで転がっている。額に冷たいタオルを当てながら。


二人で泣きながらいつまでも風呂場で抱き合ってたもんだから、気が付くと二人そろって見事にのぼせちゃったわけで。
くらくらする頭を冷たいタオルで押さえながら、なんとかベッドまでたどり着いた。

「…ごめんね、和ちん」
「…俺こそ、ごめん。な、もうやめよう。謝るのはこれでおしまい。」

一夜の方を向いて、にこりと笑う。一夜も、にへっと笑う。


ああ、その笑顔。いつも俺の隣にあった、俺の大好きな一夜の笑顔だ。
俺はころんと一夜の方へ近寄り、そっと抱きつく。


「…一夜、好き…」


一夜の胸にすり寄りつぶやくと、一夜がそっとキスをしてきた。…顔、真っ赤じゃん。


「和ちん、あんま煽るのやめて…。俺、手加減できなくなっちゃうから」
「…ふふ、いいよ。今日は俺が上になってあげる」
「き、騎乗位…!?…っ、和也!!」

とたんに一夜が、がぜん張り切って俺に覆いかぶさってきた。
いいよ、一夜。今日は何でもお前の言うとおりにしてやるよ。いつもいつも、俺の事ばかり考えて俺のためにってしか行動しないお前のために。こんなことぐらいしかできないけど、俺だってお前のために。

「…俺をどうしたい?好きにしていいよ、一夜…」

口づける一夜の首に手を回し、上目づかいでそう言うと一夜は鼻血を出して目をまわして倒れてしまった。…あ〜あ。


「カズヤ!」

待ち合わせ場所に、俺を見つけたミシェルが嬉しそうに駆けてやってくる。俺の前まで来ると途端に笑顔を消し、隣にいる人物を怪訝な顔でじろりと見た。

「…なんでイチヤもいるの」
「初めまして。和也の恋人の一夜です。あんなことあった次の日に二人きりでなんか会わせるわけないでしょ。お前が和也にこれ以上手を出さないってわかったら認めてやるよ」

二人の間をばちばちと火花が散ってる。先に動いたのはミシェルで、すいと俺の腕に手をまわした。

「しょうがないから着いて来れば。ま、ボクとカズヤのラブラブっぷりに凹まなきゃいいけどね。」

反対側の手に、一夜が腕を回す。

「へーんだ、そっちこそ俺と和ちんのいちゃいちゃに泣かなきゃいいけどね!」
「一夜、ミシェル」
「「なーに!?和也!」」

二人が同時に俺を見る。

「歩きにくいから離して」
「「…はい…」」

俺が言うと二人ともしぶしぶと手を離す。

「さ、じゃあ行こうか。」

歩き出すと二人並んでとぼとぼとついてきた。俺はそんな二人を見てくすりと笑った。


三人でしばらく近所を探索したところで、一夜がぴたりと歩を止める。

「じゃ、俺はここまで。和ちん、気を付けて帰ってきてね。」
「うん、じゃあな一夜。」
「え?えっ?カズヤ、イチヤ帰っちゃうよ?」

急に進路を変えた一夜に、ミシェルが去っていく一夜と俺を交互に見る。

「いいんだ、ミシェル。一夜は用事があるんだって。ここまで道が一緒だったからついでにきただけ。」

一夜はさっきあんな風に言ったけど、ほんとはただ純粋にミシェルを見てみたかっただけだろう。その証拠に、一夜はいつものように恋人である雰囲気なんか微塵も出さなかった。
『あの時俺に気づいて、和ちんをちゃんと返してくれたから』
と言ってた。


さっきの無言で並んで歩いた時間は、きっと一夜にとってのミシェルへの謝罪。


「あ〜あ、かなわないなあ。」
「え?なにが?」

ミシェルが肩をすくめ、ぽつりとつぶやいた。何のことかわからなくて聞き返すと、ミシェルはにこりと微笑んだ。

「カズヤもイチヤも、お人よしだね。」
「俺はどうかわからないけど、一夜はそうかもな。」
「カズヤ、イチヤのこと好き?」
「…もちろん。一夜は俺のすべてだ」


俺がそう言うと、ミシェルはますます肩をすくめた。
一夜にとって俺がすべてであるように。俺にとっても一夜がすべて。いつだって、胸を張ってそう言えるように、一夜の思いに応えられるように。


一夜と同じ空を見上げて、一夜を想って笑みをこぼした。


end
→あとがき

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