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「カズヤ…?手、どけて…」
眉を寄せるミシェルに、俺は首を横に振る。
「…だめだ。ミシェル、俺は一夜じゃないとだめだ。ミシェルの言うこともわかる。…でも、どう違うって聞かれても、俺には一夜だからとしか言えない。…いつもどんな時も側にいたのはあいつだった。一夜が、俺をずっと想っていてくれてたように俺も一夜をずっと想ってた…。俺、どれだけ考えても俺の側にいるのはやっぱり一夜しか浮かばないよ」
「カズヤ…」
ミシェルはとても辛そうに目とギュッと瞑り、抱きしめている俺におでこをこつんとぶつけた。
「…ボク、日本に生まれたかった…。イチヤみたいに、カズヤの側にいたかった…」
「ミシェル…」
何も言えない。俺には言う資格がない。仮定の話をしたとしても、現在俺の側にいるのは一夜であって、それはけして覆ることのない事実。
俺は黙ってミシェルに抱きしめられていた。
しばらくして、ミシェルが目を開けにこりと微笑む。
「うん、でも好きでいるのは自由だもんネ。ボク、日本にいる間、頑張ってカズヤの側にいるよ!二週間後にはボクはカズヤとは離れなくちゃいけないんだもん、それくらいは許されるよね?」
ミシェルの言葉にぽかんと口を開けてしまった。…え、どういう意味?
間抜けな顔をしている俺をベンチから立たせ、ミシェルがチュッとキスをしたかと思うと俺の肩を掴んでくるりと体を回転させた。
俺が向いた視線の先には
「…一夜」
「だから、今日はもうカズヤはイチヤに返してあげる。さっきのキスはボクへのご褒美ネ!」
とん、と俺の背中を押す。振り向くと、ミシェルは少し悲しそうに微笑んだ。
「公園に着いてからずっと、ボクタチを見てたんだよね。彼が、イチヤでしょ?行ってあげなよ、カズヤ。彼、ずっと泣きそうな顔してた」
ミシェルに言われ、一夜を見ると一夜は泣きそうな顔で微笑んでいた。
…ああ、バカだな、一夜。
「ありがとう、ミシェル。」
「どういたしまして。忘れないで、カズヤ。二週間はキミはボクのものだよ?約束」
「一夜が嫌がることはしたくないから一夜次第かな。多分許してはくれるだろうけど、ミシェルといても俺は一夜のものだよ」
俺が言うとミシェルは肩をすくめ、一人公園を後にした。
「一夜」
一夜に近づき、声をかける。一夜は少しの間動きもせず俺を見つめていたけど、やがてゆっくりと腕を上げ俺に向かって両手を広げた。
「…和也」
名を呼ばれ、一夜の腕に飛び込む。
「ただいま、一夜」
「…和也、おかえり」
一夜は本当に愛おしいと言うように、俺を優しく抱きしめた。
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