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「和ちん、どしたの?」
家に帰り、先ほどのキスについて『外人ってほんとに誰にでもキスで挨拶するんだなあ』なんて考えながらソファでぼうっとする俺に一夜が抱きつきながら首を傾げる。
「いや、なんでもないよ。」
たとえ挨拶だとしても、キスされたなんて言うと一夜が怒るだろうから言わないでおこう。
首を振ると、一夜がぎゅうぎゅう抱きついてきた。
「一夜?」
「和ちんが帰ってくる前におばさんから電話があったよ。なんかね、ミシェルって言うの?その人が明日、和ちんにまた案内を頼みたいんだって。」
「明日って、俺講義…」
「うん、言ったよ。そしたら近所だから、講義が終わってからでもいいからって。仕方ないからわかりました、って言ったけど…」
電車だから携帯の電源を切ってたからこっちにかけてきたんだろう。しまったな。一夜の性格からして、一度受けたことは嫌でも覆さないだろう。ため息をつく俺に、一夜が泣きそうな顔を向ける。
「ご、ごめんね。和ちんを信じてないとかじゃないんだよ。ただ、そいつが和ちんをわざわざ指名してきたってことは、そいつ、和ちんに興味があるんじゃないかと思って…」
しゅんとする一夜に腕を回し、頭を胸元に埋めるように抱きしめてやる。
「俺こそごめん。一夜に疑われてため息ついたとかじゃないんだよ。
明日、とりあえず行ってくるけどそれ以降は断るよ。それに、前も言ったろ?例えば相手が万が一に俺になにかしら興味を持ったとしても、俺が好きなのは一夜だから。」
俺が言うと、一夜は無言でぎゅうぎゅうと俺の胸に顔を埋め抱きつく。
まるで子供だな。
くすりと笑い、抱きつく一夜を優しく抱きしめ背中を撫でてやった。
一夜は、その日1日それ以降一言も喋ることなく俺に抱きついていた。
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