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二人の間を、伊集院のしゃくりあげる音だけが通る。原口はため息を一つつき、頭をがりがりとかいた。
「…あんた、ずるいよなあ」
伊集院が、びくりとすくみあがる。目線を下に落とし、服の裾をぎゅっと掴む。
「…俺、あんたが初めて来たとき、正直邪魔だった。あんたはいつもえらそうで、傲慢な物言いで。何しに毎日来るんだろうって思ってた。」
原口の言葉に、伊集院はますます俯く。返す言葉もない。自分は、確かに原口を見下していたのだから。
「…でもさ、なんつーか、毎日あんたが来てくれるようになって。
いつしか、俺もあんたが来るのを待つようになった。あんたが来てくれるのが、楽しみになってたんだよね。
…だから、今日の学校でのあんたらの話、ほんとは結構傷ついた。」
…自分の浅はかな言動のせいで、原口を傷つけた。
伊集院は唇を噛み締める。
「…あのストラップだって、ほんとは…」
パタパタパタ。
原口が話を続けようとしたとき、一羽のインコが小屋から飛び出し伊集院の肩にとまった。
原口に手に乗せてもらった、あのインコだ。
インコは、何かを見つけたらしくそのまま落ちないようにずりずりと伊集院の胸ポケットの辺りを目指して降りていく。
「あっ、だ、だめだ!」
インコが、胸ポケットから出ている紐のようなものをくちばしで摘もうとした瞬間、伊集院は慌てて胸ポケットを押さえる。突然の行動に驚いたインコはバタバタと伊集院から飛び立ち、原口の肩にとまった。
ぽとり。
インコが飛び立ったと同時に、伊集院の胸ポケットから何かが落ちた。おそらくインコは飛び立つ瞬間にくちばしですでにくわえていたのだろう。
「…あんた…」
伊集院の胸ポケットから落ちたのは、インコのストラップだった。
「…ゴミ箱から、わざわざ拾ったの?」
伊集院の顔が、真っ赤に染まる。
原口は、口に手を当て、下を向く。体が小刻みに震えている。どうやら笑いをこらえているらしい。
そんな原口を見て、伊集院はますます顔を赤くする。
「…あんた、ほんとずるいよ」
原口がストラップを拾い、伊集院へと突き出す。伊集院は原口と差し出されたストラップを何度も見比べた後、恐る恐る手を伸ばした。
「……!」
伊集院の伸ばした手を原口はいきなり掴む。
そしてそのまま、ぐいと思い切り引き寄せ、反対の手を伊集院の後頭部に回し
「―――――――ん…!」
伊集院に、深く口づけた。
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